第20章 旱天慈雨
でもまぁ、どうあろうと、
「是非そうしてくれ」
俺の欲は満たされるのだ。
文句は言うまい。
中に入ると客はほぼ女。
まぁ、売ってるものが女物なのだから当然だ。
広い店は明るくて
半分は仕入れ、半分は手作りの品が並ぶ。
睦はさっき言っていた通り、
俺に何を買ってもらうか
『頑張って』選んでいた。
周りの客が引くくらい
必死に選ぶ睦の後ろから覗き込み、
ついでに頭のてっぺんに顎を乗せ、
「必死すぎてお前の周りからなんか出てるぞ」
睦が手に持っていたものを見遣る。
「えッ?なんかって何?」
慌てて振り向く睦は
「なん、か、近くありませんかね…?」
違う意味で慌て出した。
ただ、そんなん俺はムーシ。
「それなに持ってんだ?」
「ぁ…え、と…香り袋…」
離れようとしていた所に質問をされ
素直に答えてくれた結果、
初動の事が
すぽんと頭から抜け去った睦は
そのまま自分の手の中に視線を落とした。
「香り袋か。
……待てよ、お前にそんなん必要ある?」
「えぇ?どういう意味?
すごくいい香りがするんだよ?ほら…」
睦は少し顎を持ち上げ見上げると
俺の鼻先にその香り袋を掲げる。
「んー…」
くんくんと鼻をきかせる俺が
徐々に眉を寄せるのが気になったのか
「…好きじゃない?」
気落ちしたような声を出した。
あぁ、そんなつもりじゃなかったのに。
「いや、好きか嫌いか言われたら好きだ」
柔らかい花の香り。
いかにもこいつが好みそうな。
睦はホッとしたように笑った。
「ほんと?」
半身をこちらに返した睦の前にある
腰ほどの高さの商品棚に手をついて
睦を閉じ込めるようにしてやり
「あぁ。ただなぁ…」
髪に擦り寄ってから鼻先をうずめた。
「…ぇ、あ、あの…ッ」
「それ持ってたら、
俺の1番好きな香りがかき消されちまうのよ」
「何のこと…?は、離れてったら」
チラチラと投げつけられる
周りからの視線に怯える睦。
…外野なんて関係ねぇ。
「そんなモンより、
お前自身の香りの方が断然いい。
ほら、甘くてうまそうな香り」