第19章 思い出 ☆彡
うそのない、ただただ愛しむような声。
全身に染み渡るその優しさが
私の心に積もっていく。
「…私、うまくできないよ…」
「何を」
「甘えるの、とか…」
「あぁ。そんなの、
俺が教えてやるからいいんだよ」
「…え?」
「甘え方。教えてやる」
宇髄さんは私の身体を
自分の膝上にひょいと引き上げ
両腕で緩く囲った。
底抜けに明るい瞳で見つめられると、
どうしていいかわからなくなる。
「なぁ睦。
これから俺と過ごすってことはな、
今までお前がうまくやり過ごして来たそのやり方を
根本から覆すことになるはずだ。
きっと、あまりにも違う生き方が待ってる」
小難しい事を言うのに、
表情はひどく穏やかで
そのズレた感じが私を少しだけホッとさせた。
「でもその混乱ごと俺が受け止めてやるから。
何も心配することねぇからな」
言い終わるのと同時に
軽く口づけをされ、私はぱちりと目を見開く。
その顔を見て
プッと小さく吹き出した宇髄さんは
「今まで卒なくお上手に生きてきた分、
今度は喜びや楽しみを教えてやるよ」
優しい口づけを繰り返した。
私は身動きひとつせずに、
彼の言動を受け入れていた。
何を言われているのか、
それを処理するのでいっぱいいっぱいだ。
「手始めに…」
ちゅっと押し付けてゆっくり、離した後、
「今日はこの後、ずっと俺から離れないこと」
悪戯を仕掛けた少年みたいに、
嬉しそうに笑って見せた。
……
「えぇ?この後、ずっと?」
「そうそう。睦がそんなんじゃなぁ、
俺も付き合ってやるしかねぇだろう?」
いや、絶対違う。
この人が、そうしたいだけなのだ。
「私のせいにしてますか?」
「いや、そんなワケねぇ。んー…
まぁ、一石二鳥と言わざるを得ないな」
やっぱり。
「宇髄さんがそうしたいだけじゃないですか?」
「だから、一石二鳥なんだって。
俺もそうしたい。だがそれがお前の為になるんだ」
そうだろ?と首を傾げ
覗き込んでくる宇髄さん。
…ずるい。
そんな顔をされては
私はもうどうにもできないのだ。
じゃあ、もうそれでいいです…
そう言いそうになって、ぐっと飲み込んだ。
もう少し、上手な言い方ないかと思った。