第19章 思い出 ☆彡
いつまでも閉じたままの唇に
甘い欠片が押しつけられた。
その香りが私の鼻をつき、
急激に誘惑に負けた私は
少しだけ口を開けてしまう。
「…可愛いな睦。…いいコ」
褒められるとやっぱりくすぐったい。
開いた口の隙間に、
きゅっと押し込まれた
あまぁい欠片。
しばらくそのまま
宇髄さんのことを黙って見上げていると、
彼はにこりと笑い、カチカチと歯を鳴らして
咀嚼しろと私を促した。
それを見て、もぐっと口を動かした私を
満足そうに頷きながら
優しく頭を抱き寄せてくれる。
「…大丈夫だよ。
俺の前では何したって許される」
何したって…?
私はごくんと飲み込んで
口の中を空っぽにしてから、
「それは、…どういう…?」
どういう心づもりで言ったのかを
訊いてみた。
だって私にとってはあまりにも
衝撃的な一言だったのだ。
「お前が睦である限り、
俺の前では何をしても許されるんだよ。
俺が、許すから」
「……宇髄、さん?」
信じられない気持ちで
見上げた先に
優しい微笑みを湛えた宇髄さん。
私の目を見つめていたきれいな紅色の瞳が
ふとズレて私の唇辺りに移った。
……
「あ、の…」
何となく、…何をされるか想像のついた私は
それを回避すべく
何か話はないかと脳の細胞を総動員させる。
ただ、
こんな焦った状態で
私の頭が利くはずがなかった。
だってまっったく何も浮かばないのだ。
役に立たないな、私は。
そのうち、ゆっくりと顔を寄せる彼。
私はその分だけ離れるけれど、
いつまでも縮まらない距離に
焦れた彼は、ぐっと私の肩を引き寄せた。
「…でもなぁ?」
「…は、い?」
至近距離で強く見つめられ、
まんまと目を逸らせなくなる私。
どれだけ、言いなりなんだ…。
そんな私にふっと笑い、
「お前も、ある程度は俺のこと許せよ」
自分の事も許容しろと言ってくる。
…許すも何もない。
許さざるを得ないのだから。
そこまで来てしまった。
私の、この人を想う気持ちが、
そこまで来てしまったの。
「…許し、ます。
宇髄さんだけ、私を…好きにしていいよ…」