第19章 思い出 ☆彡
「ん?いいんじゃねぇのか?
お前好きだろ、甘味」
「もちろん!でも私、
晩ごはん食べていないんですよ」
「……ヘェ」
だから何だ?くらいの勢いで
首をひねる宇髄さん。
私を抱きしめていた腕も僅かに緩む。
「…あ、」
そうされて、
初めておうちルールだという事に気がついた。
「あの、…ごはんをしっかり食べないと、
お菓子を食べちゃダメって言われて育ったので
それが染み付いてるんです…」
おばちゃんのルールだ。
お菓子ばっかり食べてちゃダメよ?
基本はごはん!
ごはんをしっかり食べて、
それでもお腹が空いたらおやつだよ?
お菓子じゃないの、オヤツ。
おばちゃんの口癖。
いつも同じことを繰り返し言われた。
幼い頃から言われ続けた事は
大人になってもなかなか抜けない。
私は今日、ごはんを抜きがちだった。
しかもたい焼きは、おやつではなくお菓子の類。
「あぁ、そういう事か。
それはいい事だ。確かに…同感だ」
宇髄さんは大きく頷いた。
「はい。だから…」
「だけど」
私の言葉尻を奪った宇髄さん。
紙袋を元通りに塞いだ私の手から
それを奪い取り、
がさごそと中を探ると、
「今日は特別だ。俺が許す」
たい焼きを取り出して
私の目の前に掲げた。
「えぇ…?許すって言ったって…」
「正しく育ててくれたあの人には申し訳ねぇが
今ここには俺しかいねぇ。
こっそり内緒で食わしてやる事ができるだろ?」
「…でも、」
すごく悪い事をしているような気分になる…。
「いいんだよ睦。
俺がお前を甘やかすのなんて当然の事なんだから」
愛しげに私のおでこに自分のそれを
こつんとぶつけた。
「…当然…?」
「そ。ほら、口開けてみな?」
小さく千切ったたい焼きの欠片を
私の口元に添える。
唇を引き結んだまま
彼を見上げるばかりの私に
優しく微笑んで
「ちゃんと約束が守れて睦はいい子だな」
約束を破ろうとしているのに褒められて
私はひどくくすぐったい気持ちになった。
「でもお前はもうれっきとしたオトナだ。
ちょっと考えればわかるだろ?
俺と2人きりの時は、
甘える事を許されんだよ…」