第19章 思い出 ☆彡
…でも。
でもだ。
確かに、食べていない。
朝から何も、というわけではないけれど、
それでもごはんらしいものはほぼ食べていない。
じっとこちらを見たまま
私の返事を我慢強く待っている宇髄さんに
わざとらしくにこっと笑って見せた。
「こら、ごまかすんじゃねぇよ。
その様子じゃ食ってねぇな?」
眉を寄せ、しかめっ面をされて、
…そんな顔ですらきれいだなぁなんて
馬鹿げた事を考えてしまう。
そんな私に敏感に気づき、
「見惚れてんじゃねぇよ」
縁側から立ち上がりながらくくっと笑った。
…バレた。
そんなに顔に出るのかなぁ…?
「おぉ、心の声がダダ漏れだぞ。
すぐ顔に出るのな。
俺の前だけだといいけどなぁ?」
取手のない紙袋を手に
私の隣にどっと座った。
当然のように両足で私を囲い
閉じ込めるようにした。
急に近くなった距離。
どきっと高鳴る心臓を押さえると、
「なぁに。緊張してんの?」
何故か嬉しそうな宇髄さんが
私の頬に唇を押し付けた。
「わあ…っ!」
ほっぺたを押さえて飛びのいた私を
両手で引き戻し、
「んな驚く事じゃねぇだろ」
呆れたように目を見張る。
…いや、驚きますよ?
いきなりそんな事をされたら。
確かに私の心はこの人を向いた。
…いや、向かされた…?
まぁどちらにせよ、今やこの人が大好きだ。
その上、肌まで許してしまった。
だけどそれだって、まだ数える程度。
全然慣れない。
この人は当然のように
私を抱きしめたり
くっついたり口づけたりするけれど…
私は未だに緊張する。
いつまでも慣れない自分も不思議だけど
…なぜ宇髄さんは緊張しないのかも不思議だ。
「ほら、これ食え」
「これ…?」
差し出された紙袋。
受け取って中を覗くと
「…たい焼き」
燦然と輝く黄金色の、たい焼きだ。
「そう。たい焼き。お前が好きそうだろ」
「…はい。好きです…」
何を差し出されたのかと
どきどきしていたのに
まさかのたい焼きで拍子抜け。
しっかり栄養を取れと言われるのかなと
身構えていたからだ。
「…なんだ?不満か?」
「違います!こんな、お菓子でいいのかなって…」