第19章 思い出 ☆彡
「無理無理。
何だって?
俺とくっついてると
身も心も腹も満たされちゃうって?」
「いっ、言ってないよそんな事!」
「そうかぁ?そう聞こえたがな、俺には」
すぐに恥ずかしがって逃げるくせに
高い確率で胸の内を吐露してしまう。
そんな睦が
愛しくてしょうがない。
「身と心を満たしてやる自信はあったが、
腹まで満たせるとは知らなかったな…
さすが俺様はすげぇな」
自画自賛する俺に、
驚くほど呆気なく顔を上げ、
「……」
無言でぱちりと瞬きをし、
俺の目を見つめたまま
あー、っと口を開けて
おもむろに顔を寄せたかと思うと
かぷっ
と顎の付け根に噛み付いて来る……
「…っ」
不覚にも、息を詰めてしまった俺は、
ハッと我に返り
「いやいやいや、お前なに…
くくく…っ。何やってんの?」
笑ってしまった。
この脈絡のない行動。
しかも可愛い。
はむはむと甘噛みをする睦は
「…おいしそうかもと思って…」
至って真面目に答えた。
顔は見えねぇが、声が真面目だ。
「あぁ、俺で腹を満たそうって?」
「うん」
「だからって誰が食うんだよ、可愛いヤツめ」
俺の首筋辺りに埋まっている睦に
反撃をする。
こうやって戯れてんのも、
夢のように幸せだ。
訪れるはずがないと、
どこかで諦めていた在りし日の俺に
教えて…
そして自慢してやりたい気分だった。
お腹が減らない事を気付かされ、
それを不思議に思った私は、
あんなに恥ずかしくてたまらなかったというのに
すんなりと顔を上げてしまった。
ん?と不思議顔をしている天元が、
やけに美味しそうに見えて
そこに噛み付いてしまう始末。
果たして、
お腹は空いているのか、いないのか…。
⌘
「お前、メシ食ったのか?」
不意に飛んできた質問。
私はお茶を飲む手を止めて
ふと顔を上げた。
庭は満月に照らされて青く染まっていた。
草葉の合間からは虫たちの奏でる音楽。
愛しい宇髄さんが
縁側で盃を傾けている。
部屋の中でぬくぬくと過ごしていた私は、
この人はなぜそんな事を訊くのかと
不思議に思っていた。