第19章 思い出 ☆彡
「…しません」
小さく呟いて、下を向いてしまった。
あーあ、可愛かったのに。
「なんでだ?」
「…私は今のままでいいんです」
そう言った睦は、
もうあの目を俺に向けることはなかった。
⌘
あの時の目。
縋りたいのを隠して
甘えたいのを堪えて
それでも俺を頼りたいと言っているような。
そんな目を、今でもするのか睦。
でも、今なら甘えてくれるよな…?
こっそり胸に秘めた俺の願い通り、
睦は俺の首に腕を回して
頬を擦り寄せた。
「…淋しい…?」
「んー…睦がいなきゃ淋しいよなぁ」
柔らかい体をぎゅっと抱きしめる。
すると睦は
「そっか…じゃあこうしてよ」
少しだけ布団に体をうずめて
自分の落ち着く体制を探した。
「…後から、家事やれば良かった、
なんて思わねぇか?」
「うん…。天元が淋しくないならいいよ」
「俺のためー?」
「当然でしょー?」
くすくすと笑いながら
睦は俺の髪を撫でる。
あの、素直になれずに戸惑っているだけの睦も
初々しくて可愛かったが、
躊躇いもなく自分の思うままにふるまう
今の睦もたまらなく可愛い。
しかも、
ここまで自分を曝け出す相手は
この俺にだけ。
何とも幸せなことだ。
「……お腹はすかないの?」
やけに何度も訊いてくるなぁ…
……んー?
「…さてはお前が腹減ってんな?」
からかうように笑ってやると、
「んー…んー?そう、でもないんだよねぇ…」
お腹の辺りをさすって首をひねる。
「珍しいな」
「そうだね。…天元とくっついてるからかな?」
可愛い言葉を口にして
自分の言った事を自覚したのか、
睦は染まった頬を隠した。
「…隠すなよ、睦ちゃーん」
睦の肩に手を掛け
顔を覗こうとする。
枕に顔を押し付け隠れる
往生際の悪い睦は、
「わかってるくせに…っ」
悔しそうな声を出した。
相変わらず可愛い可愛い。
「わかってるから見てぇんだろ」
「察してよ!」