第19章 思い出 ☆彡
「なにを、…っ!や、もう、!」
慌てっぷりが半端ない。
冷静になったり怒ったり、
色んな顔を見られるのが嬉しい。
「…可愛いの」
つい
本音を口にしてしまうと
目を白黒させた睦が、
「なん!なに言うんですか。
私、をど、どうするつもりですか⁉︎」
部屋の角に思い切り背中を押し付け喚いた。
おーおー…
そんなに動揺して下さるのかよ。
「どうって…そんなん決まってんだろ。
睦を…」
一歩踏み出すと、
猫の前の鼠状態。
「俺のモンにすんだよ」
今度は正面から追い詰める。
逃げ場のない睦は
ただ身を縮めるばかり。
と、
思っていたが、
「揶揄わないで下さいっ‼︎」
思い切り向こう脛を蹴られた。
「…い″っ‼︎」
俺は忘れていたのだ。
猫に睨まれた鼠も、
窮地に立たされりゃ噛み付く事を。
だがそんな事に屈する俺ではないのだ。
俺様に弱点などない。
…強いて言うなら、睦だけだ。
「どう見てもからかっちゃいねぇだろ。
俺にはお前しかいねぇのに、
その俺をひとりぼっちにすんのか?」
「そ、んな、事を言われても…。私は…」
困ったように目を泳がせた。
弱っチョロそうに見えるのになぁ…
この俺を蹴飛ばしやがった。
おもしれぇ女。
「俺に、淋しい思いさせんなよ」
余計に目が離せねぇ。
「お前の事も、ひとりぼっちにはさせねぇよ…?」
見下ろしてそう言ってやると、
潤ませた瞳を真上にいる俺に向けた。
熱のこもったような眼差し。
やっと、俺の言葉が
こいつに刺さったような気がした。
そこで初めて、
睦が淋しい思いをしてきたのだという事に気がついた。
「…そうなのか睦。
お前、淋しかったのか」
つい抱きしめてしまいそうになるのを
ぐっと堪える。
俺の言葉に何も言えなくなり、
それでも目だけはこちらを向いたまま。
…これでは肯定しているようなものだ。
「俺になら寄り掛かってもいいぞ?
そばに居て、甘えてりゃいい」
可愛く見つめられ、
愛しくなってきた俺は
心のままに睦を甘やかす言葉を吐く。