第19章 思い出 ☆彡
「…そんなばかな。
いくら私が世間知らずだからって
そんなワケない事くらい知ってます」
少し眉根を寄せた。
…そんな顔もするんだな。
可愛いな。
「世間知らずなのか。なら、教えといてやる。
あのな『恋』ってのは
奇跡を起こすんだぜ?」
「……」
一瞬、目を見張った睦は、
突然ぷっと吹き出した。
「何を言い出すかと思えば…ふふっ」
さも面白げに睦は
声を上げて笑う。
笑われるような事を言った覚えはない。
至って真面目だ。
「宇髄さん、男前だし素敵な男性なのに
乙女みたいなこと言うんですね」
……。
「睦は、可愛らしいしか弱い女なのに
てんで乙女とはかけ離れてんだな」
「な、なななんだか失礼です!」
「……褒められて照れたろ」
「っ!違います!」
ぷいっと顔を背け、
また小物づくりを再開させる。
ここは睦の店。
閉店後の、作業場だ。
橙のランプが睦の手元を照らし、
みるみるうちに仕上がっていく簪を
俺は魔法でも見ているような気分で見つめていた。
「大したモンだなぁ睦。
指先の器用さで
お前の右に出る者はいねぇんじゃねぇか?」
「褒めすぎですよ。
上には上がいるんです。
私なんかまだまだです」
手を動かしながら冷静に答える睦。
俺は腑に落ちなかった。
こいつは素直じゃねぇ。
ガキの頃はあんなに表情豊かで
心にまっすぐで素直だった。
それなのに、この可愛くないのはどうだ。
どうしてこうもひねくれちまったのか。
…でもさっきの動揺した姿を見たところ…
本音をひた隠しているだけのようにも見えた。
俺を警戒しているのだろうか。
それなら、いい傾向だ。
なぜって
俺を意識している証拠だから。
いい事だ。
「なぁ睦?」
「はい」
作業の手を休めずに
それでも返事をしてくれる律儀な睦。
俺はその作業台の端に肘を掛け
簪を真剣に見つめている睦を
ぼんやりと眺めた。
「俺のこと、どう思う?」
「…どう、って?どういう、事ですか?」
睦の意識は
きっちり半分こ。
半分は俺、もう半分は簪だ。