第19章 思い出 ☆彡
愛想を尽かされてもおかしくない状況。
もともと惚れたのは俺。
無理矢理振り向かせたのだから、
そうなっても不思議はねぇ。
せっかく手に入れた所で、
こんな失態おかしてちゃ世話ねぇな…。
「睦…危ねぇから、下りよう」
できる限り優しく声をかける。
だが、そんなことより
「睦、ごめんな」
謝罪が先だ。
それでも、睦はぴくりとも動かない。
まるで俺がいないかのようだ。
「悪かった」
でも、謝るしかない。
それしか出来ない。
月を見上げるような姿勢だった睦の首が、
突然がくりと下を向いた。
何となく違和感を覚え、
注視していると
突然、何の前触れもなく
睦はそこからするりと体を落とした…
「睦‼︎」
何が起きたのか、
睦は何をしたのか、
そんな事を考えている場合ではなかった。
落ちゆく睦の体を
うまく捕まえ地面に降り立つ。
心臓が早鐘を打っている。
「…な、にをしてんだお前は‼︎」
生きた心地がしねぇ。
強く抱きしめるが、
睦を失うかもしれなかった絶望が
俺の全身を支配していた。
「睦!何とか言え‼︎」
両肩をつかみ、ぐっと体を引き離す。
睦は焦点の合わない目で
虚ろな表情をしていた。
「…睦…おい…」
ゆっくり肩を揺さぶるも
特に反応がない。
「…さっきは悪かった。
俺が悪かったから、頼むから戻って来いよ。
こんな事するなんてお前らしくねぇ…
俺のせいだろう?謝るから…睦…」
「……か…」
呆然としている睦から、
微かに声がもれた。
俺は睦の口元に耳を寄せた。
その途端に口をつぐむ…
「睦、ちゃんと聴く。
聴くから、話してくれ」
さっきの話は聞いてやれなかった。
それが、ひどく心残りで切ない。
「…かわいい子が…」
可愛い子?
…さっき言ってた『男の子』の事か?
「…宇髄さんが、おとうさんで…」
「…な、に…?俺…?」
「宇髄さんにそ、っ…くりな、かわいい子、」
言葉にした途端、
想いと同時に
睦の目からは大粒の涙が溢れた。