• テキストサイズ

【鬼滅の刃】予定調和【宇髄天元】

第19章 思い出 ☆彡






それでも口を開かない俺を前に、
しばし立ち尽くす…

引き止めてほしかったに違いない。
行くなと、俺に言ってもらいたかっただろう。
それをわかっていながら
俺は何も言わなかった。
…言えなかった。

こんな俺でいいのか、
睦を試したかったのだろうか。
他の事に関しては過剰なほど自信のある俺。
だが、こと睦に関しては
なんとも小さな俺…

ふらふらと出て行く睦の背を見ながら
話を仕舞いまで聞いていなかった事を思い出した。



——いない。
睦が消えた。

買い物かごは台所に置かれたまま。
朝のうちに睦が干した洗濯物は
夕日に照らされて淋しそうにしている。

……消えたくもなるよな。
俺がこんなんじゃ。

屋敷にはいねぇ、行きつけの甘味処にも
睦の店にも弁当屋にも姿はない。
残るは、家だけだ。

焦る気持ちを抑え
俺は睦の家に走った。

しかし家ももぬけの殻。
俺は愕然とした。
割と、睦の行動範囲は
わかっているつもりでいた。

想いが通じてまだ日は浅いが
長年見守ってきた俺としては
自信があった。
なのに、…。

…そんな俺が偉そうに、
あんな態度をとったせいで
ひどい結果だ。

情けない。
睦の前でだけ、かっこつけられねぇとか。
粋じゃねぇなぁ。
俺じゃないみたいだ。
……
やり直したい!
あん時に戻ってやり直したい。
ちょっとかっこつけた俺を演じ直したい。

後悔の渦に飲まれながらも、
気を取り直して睦を探す。

すでに空にはまるい月。
そうだ。今日は、
——月夜だ。

俺は睦の家を出て、
もと来た道を引き返した…。


はらはらと舞う桜。
枝の上、花たちの合間に愛しい女の影。

「…こんな高くどうやって登った。危ねぇな…」

俺ならどうって事ねぇ高さ。
だがこいつにとっちゃ、ちと高すぎる。
木登りなどした事もねぇはずが、
大桜のてっぺん近くまで登って来ていた。

俺は睦の後ろの枝にしゃがみ込み
背中から様子を窺った。

幹につかまるでもなく、
ただ枝に力無く座る睦は
返事をする気配もねぇ。



/ 2219ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp