第19章 思い出 ☆彡
だいたいだ。
「俺の前で他の男褒めんな」
特に煉獄。
勝てる気がしねぇ。
「何言ってるの…」
睦は照れたような怒ったような、
それこそ複雑な顔をした。
「お前は俺だけ見てりゃいいんだよ」
「もう天元だけしか見てないでしょ!」
「そうかよ。じゃ絶対ぇ余所見すんじゃねぇぞ」
「どこをどう見たら
私が余所見してるように見えるの⁉︎」
「今だよ、今!ヤツのこと褒めた」
「褒めるくらいする!ほんとにいい人だもの!
でもそれが余所見した事にはならないでしょっ」
「気に入らねぇ…!」
「んー…!もう、いい!」
俺の下で、睦は思い切り顔を背けた。
「よかねぇ、こっち向け」
「いやだ。もうどいて!」
「俺のこと見られねぇのか?」
「そんな事で怒り出す天元が悪いのよ!
かっこよくない天元なんか見たくない」
「お、前なぁ…!」
何だろう、
ここまで黒いものが胸に湧き上がるなんて。
ひどく久しぶり。
俺も黙っとけばいいものを、
いちいち口に出しちまうから悪い。
わかっちゃいるのに
睦の事はどうしても譲れねぇ。
付き合いたての頃に戻ったみたいだ。
よく、こうやって言い合いになったっけ…。
何の気なく
思った事を口にする睦と、
それにやきもちを妬く俺。
自分とこいつの気持ちに
温度差があるように感じていたんだ。
長いこと片想いをしていた
俺の性だろうとわかってはいたが、
あの頃はどうにも止めることはできなかった。
⌘
「ただいま戻りました」
自室に籠っていた俺に
にこやかに挨拶するのは
夕飯の買い物に出かけていた睦だ。
可愛い笑顔をひけらかして
何やらひどく幸せそうだ。
「おぉ、おかえり。…」
俺は襖から顔を覗かせるだけの睦を手招いた。
するとそれを見て、
これまた嬉しそうにほほえんで
部屋の中に入り襖を静かに閉める。
そそっと俺の隣に座り
甘えるように身を寄せた。
…いつになく可愛いな。
「なんかいい事でもあったか?」
「うん、ありました。
買い物の帰りにおじちゃんのとこに
よってきたんです。ぎっくり腰治ったって」