第19章 思い出 ☆彡
私もつい、その鉢に手を伸ばし支える。
…重たそう。
「おぉ、ありがとな」
「重たいんだから
運んでもらえばよかったんですよ…」
ホッと息をつくと、
「早ぇ方が良かったんだよ」
にっこりと笑った。
この笑顔に弱い…。
結局宇髄さんは、
私が笑われる元凶となった藤の花の鉢を買った。
しかも割と大きなそれを
小脇に抱えているのだ。
ものすごい腕力…。
「私も手伝います」
「…手伝うったってな…」
彼の言いたい事はわかる。
私では力不足。
「…足手纏いですよね」
自ら認めると、
ふっと破顔した宇髄さんは
「いや、お前が俺の力になりてぇってんなら、
コレ持ってろ」
そう言ってサッと私の前に
一輪の赤い花を差し出した。
「……これ…」
「手伝ってくれんだろ?
それ持ってくれよ。愛しい女のために買ったのに
こいつが重くて潰しちまいそうだ」
「…いつの、まに?」
「お前が葡萄食いてぇなぁと考えてる間に」
「っ!思ってないから!」
花より団子、と思われているのだ、どうせ。
「くくく、わかってるよ。それ綺麗だろ?」
「……なんて言うお花?」
「アネモネ」
初めて聞く名前だった。
でも、…ほんとにきれい。
たったのそれだけで
自分の機嫌が直っていくのがわかる。
「とっても可愛い…」
「睦ちゃんにぴったりよ」
前言をごまかすように一言発し、
「で、もしまだ手が空いてたらよ、」
ん、と私に向かって手を伸ばした。
「この手ぇ取ってくれ。
それだけで、
うちまでこいつを運び切る力が出るから」
こいつ、とは藤の鉢のこと。
優しい声と微笑み。
さっき感じた通り、
私にはいつも優しい声。
さっきの店主にははきはきとしてた。
雛鶴さんや須磨さんには
真面目で強い瞳を向ける。
でも、私には違う…。
「…どうして、それ買ったんですか?」
私はその手を取りながら訊いた。
「俺が留守にする時、
お前が淋しくねぇように」
「……」
私の事を1番に考えてくれる。
先回りして、どうすれば私が幸せでいられるかを
いつも…
「…」
「あー、今泣くの禁止。
抱きしめらんねぇから」
「…っ、はい、」
「はいってお前…可愛いヤツ」