第19章 思い出 ☆彡
「…なぁ、今度は俺に付き合えよ」
言うが早いか、
ちゅっと私に小さな口づけを落とすと、
手を引き元来た廊下を強引に戻り始めた。
「どこに行くんですか?
私、まだ部屋を片付けていないんです」
「悪いが後だ、手伝うから」
何だか嬉しそうな彼は、前を向いたまま
歩を緩める事なく玄関まで私を引っ張っていった。
「ほら、下駄」
先に草履を履き土間に下りた宇髄さんが
私の指先を握って下駄を履くよう誘導する。
言われるがままそうしたけれど…
「外へ行くんですか?」
「あぁ。ちょっと買いもん」
「えぇっ?聞いてません!」
「…そうか?」
「そうですよ、
それならもう少しマシな格好を…」
「マシぃ?」
ふと私を振り返り、
「マシどころかいつも通り美しいだろ、」
歯の浮くような台詞を難なく言ってのけた。
「ま、またそんなこと言って!
私ただの普段着じゃないですか!」
「そのままがきれいだっつってんだよ」
やっぱり前を向いたまま
楽しそうに笑う。
私に向かってお上手を言うような人ではない…。
この人は私を黙らせる天才だなと、思った。
辿り着いた先は…
苗木屋さん…?
正式には何と言うのかわからないけれど
店舗らしき小さな小屋の隣の敷地に
所狭しと並んでいる苗木や盆栽、
鉢に植った花など
たくさんの植物が置いてあった。
それらの手入れをしていた店主らしき男性に
宇髄さんは近寄り話を始めた。
私はその敷地の入り口で
まだ細く小さい桜の苗木を見つけ、
しゃがみこんでは何気なくそれを眺める。
桜の隣には梅が並び、
私はそれらが咲いた時のことを
目を閉じて想像した。
桜か梅が庭にあったら素敵だなぁ…
なんて、1人で叶いもしない事を考える。
…と、
「睦!」
少し離れた場所から宇髄さんが手を招いた。
私は立ち上がりそのそばへと駆けて行く。
「走るな、転ぶ」
ひどい子ども扱いを受けながら
彼の元へと到着すると
「庭になぁ、木を植えるなら何がいい」
ぽんと私の頭に手を乗せながら訊いた。
おや?
つい今しがた、そんな事を考えていたぞ。
「桜か梅があったらなぁと思っていました」
「桜か梅…。そうか…」
腕組みをし顎に手を当てる仕草がとても素敵…
なんてねー。