第19章 思い出 ☆彡
慌てた私は頭の中が大混乱。
捕われていた彼の手から逃れようと、
身を引くのではなく
前傾になってしまって…
『ごちんっ』
と、すごい音がしたのと同時に
目の前に幾つもの星が飛んだ。
間近にあった彼のおでこと『ごっつんこ』したのだ。
「睦っ…!」
驚いた天元が
大きな手で私のおでこを押さえてくれる。
なんだこの人の頭は!
「…っいたぁあ‼︎」
時間が経って、やっと痛覚が戻って来た。
彼の手の上から自分の手を当て
「天元…、大丈夫なの…っ⁉︎」
もう一方の手は彼のおでこに当てる。
「お前涙目んなって…
俺のことより自分だろ、」
心配そうに、
それでも尚、愛しむように頭を撫でてくれた。
「あー真っ赤になってら。
腫れる前に…なんか冷やすモンを…」
そう言いながらそっと私を下ろし、
立ち上がりかけた…
そんな彼に、無意識に縋ってしまう。
「…睦?」
名前を呼ばれて、ツと止まってくれた。
「あ…、ごめんなさい…」
つい謝った私に
嬉しそうに笑ってくれた。
髪をサラリと掻き上げてくれて、
「…なんだ?淋しくなったか」
私の心の奥底に
ほんの少し見えただけの感情を、
見事に言い当てられて…。
あまりにも当然のように言った天元に
私はもう唖然としてしまった。
「くく…。俺、よくわかってるだろ?」
ちょっと胸を張る天元が、
なんだかひどく愛しい。
「でこ、冷やさなくていいのかよ。
絶対ぇ腫れるぞ」
「…いい」
「よくねぇよ」
「髪で隠れるもん」
「隠れるだけじゃだめだ。
大事な体なんだから」
よしよしと髪を撫でられて、
私はとてもいい気分。
「いいの。……」
「…んー?」
言いたいことがあるのに
うまく伝えられない私を愛しそうに見つめた。
言ってごらんと、その目が言っている。
私の全てに気づいてくれる。
なんでもわかってくれる。
臆病でいつもすぐ逃げる私を
呆れもせず優しく包んでくれるこの人は、
私の命。
「そばに、いて欲しいの」
安心して全てを曝け出せる。
受け止めてくれるのを知っているから。
お前のいいようにしてやる
いつも、そう言ってくれるから。
「…そんなこと言っていいのか?」
幸せそうな笑み。
うん、と頷いた瞬間、降ってくる口づけ。