第19章 思い出 ☆彡
だってあの時の顔。
思い切り緊張して、唇が離れた途端に
ホッと解放されたような
あの目がたまらなく可愛かった。
逃げ出したいような気持ちだったに違いない。
それでも、俺の気持ちに寄り添ってくれた。
それがなんだか、ひどく可愛くて。
嬉しくてつい言ってしまった一言が
睦の逆鱗に触れた、
と言うことだ。
しかも俺の言った余計な一言も加わって
取り返しのつかない事になってしまった。
だけど、こいつはもう俺のモノ。
気持ちも身体も、すべてが俺のなのだ。
だからこうやって怒りもするし…
そして許してしまう。
「…私、だけ…?」
そう言ってやっと顔を上げた睦。
それを見て、
こいつの不安を煽ってしまったんだと
大いに反省した。
長年の想いを実らせたばかりで
俺なりに浮かれているせいで、
なかなか制御がきかなかったり
ついついからかいたくなってしまったり。
だがこれでも、抑えているつもりなのだ。
「あぁ…睦だけだ」
お前だけに決まってる。
ガキの頃からお前だけを追ってきた。
どこか諦めながらも、
睦とこうなれる事を夢見ていた。
「俺にこんなこと言わせるのも、
ここまでさせるのも睦だけ。
俺にとって睦以外は女じゃねぇの」
もう俯かないよう、両手で頬を包み、
その手に隠れるように口づけをした。
びくっと、怯えるように身を竦ませ
どうにか逃げようと
俺の腕に手をかける睦。
弱々しく抵抗する姿にそそられて
止まれなくなりそうだ。
「睦、さっきの、やり直していいか?」
唇を軽く触れ合わせたまま囁く。
『さっきの』の意味がわからないのか
考えるふうに俺の目を覗き込んだ。
こんなに近くに睦がいる。
顎をあと寸分上げれば口づけられるくらい。
このもどかしい距離に、
俺の我慢がどれだけ持つか…。
でも訊いたからには、答えを待つべきか?
しかし睦は何も言わないまま
とん、と俺の肩を突き俯いた。
泣いている…わけではなさそうだ。
「…まだ、怒ってるか?」
俺からの質問には首を振って答える。
答えてくれるあたり、
ただ機嫌が悪いわけでもなさそうだ。
「でも、さっきの続きはしたらダメなのか」