第19章 思い出 ☆彡
睦は小さく頷いた。
「なんで?俺なんか、もうイヤになった?」
その質問には大きくかぶりを振った。
相変わらず俯いたまま。
表情は窺えない。
細い肩に両手をかけて
顔を覗き込もうとした瞬間、
ぷいっとそっぽを向かれてしまった。
「おい睦…?
俺の顔見んのもいやなのかよ」
これはどういう心理なんだ?
怒ってるわけではなくて
イヤになったわけでもなくて、
なのに顔は見られたくないし
口づけもされたくない…?
「…俺は機嫌なおして欲しいし
顔見てぇし口づけもしてぇ。
…欲言えばその先もしてぇ」
全身を引き攣らせた睦が
一瞬だけ見せた隙をついて、
すでに睦の背中にあった壁に
小さな身体を押し付けた。
否応なく、正面を向けさせた顔。
すでに頬は真っ赤。
思い切り、俺を意識している顔だった。
それを見られて動揺している睦は
最後の抵抗とばかり横を向く。
そして俺も、
それに張り合うように悪あがきをする。
こちらを向いた頬に掠め取るような口づけ。
「あ…!」
頬を押さえ、小さく俺を睨んだ。
「何だよ、悪ィのか」
わざと拗ねた声を出してやると
更にムッとしたように眉を寄せ、
「…わるいです」
一言放つ。
恋人なら当然の権利だと思っている俺は
構わず顔を寄せた。
それをまた上手いこと避けて
俺の頬に自分のそれを擦り寄せてくる。
「……睦…」
何をされたのか瞬時に理解ができなくて、
俺は石にでもなったかのように
動けなくなった。
「宇髄さん、大好きです…」
消え入るような小さな声。
今、間違いなく、好きだと言われた。
頬を合わせたまま、耳元で。
「…何のゲームだよ」
肩に置いたままだった両手を
睦の頬に滑らせようとして
「だめ」
手首をそれぞれ掴まれ阻止される。
……
「はい?」
なんで?
「宇髄さんは触っちゃだめです」
目を合わせることなく言った。
「…どういう事よ」
「そういう事です。
私の恐怖克服のために協力してくれますか?」
もの凄く真剣な眼差し。
言いたい事はわかったような気がする…
ただ、…。
「俺がお前に触らねぇ事が
お前の恐怖克服とやらに繋がるのか?
そもそも恐怖ってなんだ」