第19章 思い出 ☆彡
長い指の先で顎を掬われ
ゆっくりと傾いていく彼のきれいな顔を
どこか冷静に眺めていた。
なのに、自分の唇に彼のそれが触れた瞬間、
一気に現実に引き戻されて
今までのどんな時よりも大きく鼓動が跳ねた。
きつく目を閉じて顎を引いた私を追うように
唇が合わせられる。
私、今の今まで、うちの仕事をしていて、…
やっと終わって一息ついた所で…
それが急にこんな…こんな、事を…
脳内は混乱の渦。
そんな私を知ってか知らずか、
甘い口づけを繰り返す宇髄さん。
少し唇が離れたのを感じて、
薄く目を開いた。
目の前には、色を宿した熱い瞳があって、
これはもしやと、邪な事を考えてしまう。
「…ぁの…」
待ったをかけたくて声を発した途端に、
また唇を塞がれた。
あぁ、違う…そんな事をされたら…。
身体中の脈が乱れ出す。
全身が心臓になったみたい。
「…宇、…ん」
隙を狙って話そうとするのに、
次の瞬間には再び塞がれる。
だめだ。
この人は話なんかする気がないのだろう。
触れるだけの口づけは、
少しずつ情熱的なものに変わっていく。
私の様子を窺いながら、
どこまでなら許されるのかを
探っているように思えた。
…どこまででも、許せてしまいそうで怖い。
両手でほっぺたを包まれ
角度を変えて何度も押し付けられる。
そのうち絡まるような口づけに変わり
やっと解放された私。
自分でも知らないうちに
身体が緊張していたみたいで、
ほぅっと息をついた。
その様子を見ていた宇髄さんが、
「…可愛いな。
今まで見てきたどの女より可愛い…」
うっとりと呟く。
「……」
でも私は、その瞬間夢から醒めた。
スッと血の気が引いた。
それに、彼も気がついたのだろう。
目を見張り、
「…睦?」
不安げに私を覗き込む。
さっきのとは全く違う種類の鼓動。
どくっと心臓が脈打つたび、
冷たいものが広がっていく…。
「どうした…」
そう訊いてくる言葉を遮って
ほっぺたに当てられていた彼の手を払い除けた。
座った体制で、ずるっと下がる。
1人分の距離を取り
そのまま、自分の両腕を抱きしめた…
『今まで見てきたどの女より』…?
考えもしなかった事だ。