第19章 思い出 ☆彡
自分がそうだったから、
この人もそうだと勝手に思い込んでいたけれど
もしかしたら
他の女の人を知っているのかもしれない。
私はその人と、比べられているかもしれない。
そう思うと怖くて仕方がなかった。
ほんと、どうして何も思わなかったのか。
これだけ優しくて素敵な人だもの。
周りが放っておくはずがない。
私を抱く時だって慣れていた。
女性のひとりやふたり、
知っていたっておかしくはないのに。
この人にとって、
私が初めてなんじゃないのはいい。
でも、比べられるのは耐えられない…
そんな自信は、私にはない。
急におとなしくなり、
距離までおいた私を不思議顔で覗き込み
「なんだ急に。どうしたんだよ」
戸惑うように言った。
何でもないよって、言いたい。
でもそんな事を言う余裕なんてなかった。
わざとらしい愛想笑いを浮かべ、
ただ首を横に振るのが関の山だ。
「…お前、俺にそんなん通用すると思ってんのか」
低い声。
怒ったの。
「おい、こっち向け。俺を見ろ」
自分を抱きしめた腕をほどかれて
強く引き寄せられる。
咄嗟に両手を彼の胸に突いた。
それ以上そばに寄らないように。
「…見ない。離して、やっぱり無理です」
泣いてしまいそうだ。
声が震えてしまう。
「何が無理なんだ」
「ぜんぶ…全部無理です。
私なんか…」
小さなため息が、耳に届いた。
「ナンカって言うな!自分を卑下すんな。
何で急に……俺何か悪いこと言ったか?」
気遣わしげにかけられる言葉にカチンと来る。
私の気も知らないで。
昨日のお店での事といい、
この人にはいちいち女性の影があって
頭に来るんだ。
「…なにもありません。離して下さい。
そろそろ夕飯の買い物に行ってきます」
つかまれた腕を離そうとすると
逆に強く握られた。
「…っいた、いですっ!」
ものすごい力。
呻きながら睨みあげると、
「…お前は、俺のモノになったんじゃねぇのかよ」
ひどく弱々しい声がした。
つらそうな表情が目に入り、
さっきまでの怒りが少しだけ引く。
「なぁ、俺のこと好きだよなぁ?
俺の勘違いじゃねぇって言ってくれ…!」
彼は明らかに切羽詰まっていた。
そうだよ、勘違いなんかじゃない。
だって私こんなにあなたが好きだもの。
でも、
「…こわい」
ちゃんと、話さなきゃ。