第19章 思い出 ☆彡
目は小物に向けたまま
にこりと笑って見せる。
そんな事をするのが関の山…
自分でも情け無いと思う。
困った事にそれ以上の言葉も出てこない。
「…疲れてるのか?」
そっとおでこに掌を当てられ
いつもの優しい声で訊いてくれる。
「…っいえ!あ、はい、多少は…」
「ぷ。どっちだよ」
横を向きおかしそうに笑う宇髄さん。
ついそれに見惚れていると、
「…可愛いツラしてねぇで仕事に集中しろよ」
向こうのお客さんに聞こえないよう
私の耳元に口を寄せ小声で言った。
「ちっ、ちゃんとやってます!」
耳を押さえてパッと身を離した私を
楽しそうに横目で見ながら
「また来るわ」
背を向けて手を振り去っていく…。
くそう…
何しても絵になっちゃってさ…。
自分の気持ちをごまかすように
作業に戻った私の耳に、
今度は可愛らしい声が届いた。
「大きな人だったね」「でも素敵だったね」
お客さんの、そんな会話。
…なんとなく、優越感…?
でも、そわそわする自分もいた。
そのそわそわの正体もよくわからないまま…。
次の日の昼間、
珍しく宇髄さんがうちまでやってきた。
私の行動パターンを知りつくしている彼が怖い。
確かに今日は、お店は休み。
週一の休みは溜まった家の掃除や
片付けにあてている。
故に…
「…何の用ですか」
なんて、ちょっとした悪態をついてしまう。
「お前な…恋仲になった男が会いに来てんのに
もちっと喜んでもいいんじゃねぇの?」
がっくりと肩を落とした姿を見て、
「ごめんなさい!ちょっとやる事がいっぱいで…
そっちを片付けないとって思ったら…」
慌てて言い訳をした。
「そうか…邪魔しちまったか」
あの私のついた悪態のワケが
宇髄さんを嫌がったんじゃない事を知って
納得してくれたのか、
多少機嫌を良くして草履を脱ぐ。
私の肩を抱きながら部屋へ向かって歩きつつ
「やる事って何なんだ?」
首をコキコキと鳴らした。
「お掃除とか片付けとかいろいろです。
休みの日にしかできないので…」
引き摺られるように何とかついていく私。
「いつ終わる?」
ひょいと覗き込まれて…少しだけ困る。
いつ、と言われても…。
「…終わり次第終わります…」
「…そうだろうな。じゃここで、
終わるの待っててもいいか」