第19章 思い出 ☆彡
「睦…?疲れたか?」
気遣わしげに私を覗き込む。
そうされると、私が嬉しい事を知ってるのかな。
「ううん、心地いいだけ」
「……いつのまに、
俺のこと好きになったんだろうなぁ」
「え?」
ぼんやりと言った彼を見上げた私も
いつだっけ?なんて、思いを巡らせた。
散々避けられた。
こっちが真剣に想いを伝えても、
俺への気持ちに気付かぬフリを決め込んだ睦。
余程、受け入れ難いものだったのだろう。
それが、いつ、どうして
受け入れる事になったのか。
その答えを、俺は何となくわかっていた。
⌘
「お前の欲しいものは?」
いつものように、突然現れる俺に
睦も驚かなくなっていた。
俺が動くのはほぼ夜だ。
夜中の任務ならそれを終えるのは朝方。
日の入りからの任務なら、
この時間。
まだ睦も起きている。
縁側に並んで座り他愛のない話をする。
なんならお茶まで用意されていて、
…茶飲み友達扱いか?
それは困るが…。
「欲しいものなんて、…思いつきません」
「ヘェ…ねぇのかよ。
女は贈り物が好きなモンなんじゃねぇの?」
「…他の女性の事なんか知りません」
口をへの字に曲げて
ぷいっと顔を背けた。
あ、今妬いたな。
そんな事を思う余裕が俺にも出てきた。
「睦ー、お前可愛いなぁ。
大丈夫だよ、俺はお前以外見てねぇから」
「何の話ですか?聞いてないし。可愛くないし」
背けられたままの顔。
居もしない女の影に嫉妬する睦。
これで、俺を好きじゃねぇなんてよく言えたものだ。
だが、こいつは本気でそう思ってる。
俺なんか好きじゃないと思ってる。
恋を知らねぇ。
人を想う事も知らねぇ。
何故か、気づき始めてる気持ちにも
知らねぇフリを決め込んでいる。
恋に対して免疫のない、真っ新な睦に
こんだけ俺の気持ちを押しつけて
存在を胸に焼きつけた。
でも俺がそうしたのは、
こいつが本気で嫌がっていないと
わかっていたからだ。
俺に対して、隙があった。
俺に、付け入る隙を与えた。
望んじゃいなかっただろうが、
俺を拒みきれていないのも事実だ。
「俺は、あるよ。欲しいもの」
俺の言葉に、
ようやく睦はこちらを向いた。