第19章 思い出 ☆彡
「謝らなくていいから…
離して下さいったら!」
ぐっと、
血管が浮くくらい彼の肩を押しやった。
その手を…
大きな手に包まれて取られたかと思うと、
握った拳を解かれて
ゆっくり確かめるように
親指が私の手のひらを撫でた。
たがい違いに絡まった指がぎゅっと
私の手を握り込んだのを、
はっとして見つめてしまう。
手、って、結構敏感で、
私にとっては抱きしめられるより
もっと大きな意味がある事に感じられた。
繋がれた手に釘付けの私を
不思議そうに見下ろしながら
これ見よがしに、ぎゅっぎゅっと
何度か繰り返し握ってみせる。
お前も握れと暗に言われているようで
一瞬絆されてしまいそうになった。
「…離したくねぇ」
小さな呟きに、私は目を上げ、ようと、
して踏みとどまった。
今、目を合わせてしまったら、
私はきっと過ちを犯してしまう。
中途半端に動きを止めた私を見た彼は
また不満顔だ。
見なくても、どんな顔をしているかわかる。
「…こっち向け」
低く言われて、それでも抵抗する私。
「怖いか」
…この人は、イタイ所をついてくる。
何も言えなくなって、目を閉じた。
その通りだ。
私は怖い。
この人が、怖い。
戻るも進むも出来なくなった私の
脇腹を通った長い腕が背中を抱きしめ直した。
片手は握られたままいう事をきかないし、
肩に彼のおでこが押し付けられて
ほぼ動く事ができない。
「俺のこと好きになりそうで怖い?
それとも、そんなのは俺の願望からくる
単なる思い違いか?」
心を見透かされたようで
私はもっと怖くなった。
「す、好きになんかならない!」
「そうか…。じゃそれでもいいから、
もう少しだけ、こうしててもいいか…?」
儚げな、囁き。
いつもは大胆不敵にふるまっているくせに
こんなふうにしおらしくなってしまわれると
無条件で頷いてしまいそうになる。
せめてもの抵抗として
手を離してもらおうと思い、
くいっとこちらに引き戻そうとすると
ぐっと押さえ込まれてしまって
ぴくりとも動かせなくなった。
強い力。
なんだか急激に
この人が男の人なんだと思い知らされたようで
鼓動が高鳴っていくのを感じる。
「……睦、…
もっと、俺のこと刻みつけろ」
あぁ、私はこの人の、策にまんまとはまったのだ。