第19章 思い出 ☆彡
言葉も紡げなくなった私を落ち着かせるように
何度も髪を撫でながら
「悪かった。こんなになるなんて
思ってもみなかったんだ。
脅かすつもりじゃなかった。ごめんな」
心から詫びているのがわかる。
でも私はそれどころじゃなかった。
どくどくと、全身が心臓になったみたいだ。
『誰かに抱きしめてもらうと安心するだろう?』
昨夜の彼の台詞が甦る。
…確かに、その通りだ。
いやいや、そんな事を考えるなんて
やっぱり私はどうかしてる。
この人は、危険なんだってば。
「…だいじょぶなので…」
私は心から危機を感じ、
彼から離れようと両腕を立てた。
「大丈夫じゃねぇだろ。
唇まで真っ白だぞ」
そう言って、ごく自然に私の唇に指を這わせる。
「はっ離して下さい!触らないで!」
ぱしっとその手を払いのけて
どんっと更に彼の胸を押した。
わかっている。
この人は私を狙いにきているのだと。
でもそれは、私にとって脅威。
「だいたいどうしてうちの中にいるんですか。
もう犯罪です!出てって下さい」
目も合わせずに
そんな事を言った私が気に食わなかったのか、
少しだけムッとしたように顔をしかめ
「…お前の心の中から?」
信じられないような一言を放った。
「……えぇ?」
どきりと心臓が脈打った。
さっきまでとは全く違う種類の『どき』だ。
「ち、がいます…。うちの中からですよ」
はからずも、狼狽える。
薄々気づいていた自分の気持ち…。
そんな気の乱れは、きっと彼には筒抜けだろう。
「ほんとに、それだけか?」
ぎゅうっと、押しつけられるように抱擁され
私は完全に逃げ場を失った。
でも、流されたりはしないのだ。
「それだけです…っ!離して下さいよ」
胸元をくっつけたくない。
鼓動が伝わってしまうから。
…どうして私がこんな事を考えなくちゃいけないの。
1人で静かに暮らしたいだけなのに…
そう思ったらなんだか腹が立ってきて
「どうして私に関わるんですか!
こんな犯罪まがいの事までして…ッ」
どうしたって振り解けない強い腕。
苛立って殴りつけた肩だって、
私がそんな事をしたところでなんの効果もない。
それがまた私の怒りを増殖させた。
「…そうだな。ごめんな」
ひどく弱々しく謝罪をされると、…
やっぱり私の方が悪い事をしたような気になる。