第19章 思い出 ☆彡
「そんなわけない…?」
天元は驚いて目を見張る。
「うん。だって、私の事を好きになるなんて
おかしいって思ってたんだもん。
そんなわけないって」
「お前それは、…相手に失礼じゃね?」
正論を…。
「今思えばそうなんだけど…!
その時は本気でそう思ってたから。
この人の勘違いだって。
私の事なんか好きになるわけがないって」
「…でもお前それ、俺にも言ったよな」
呆れたような目に変わった。
もう…。
「言った。みんなに言ってるんだよ。
でも…」
そう、『でも』だ。
「…しつこく食い下がって来たのは
天元だけだった」
「お前、言い方」
ぷっと吹き出した天元は
よしよしと頭を撫でてくれた。
「だって…ほんとだもん。
他の人は引いて行ったけど、
天元だけは、…何度も来てくれた」
「しつこくて邪魔なヤツって思ったんだろ?」
愛しげに抱き寄せてくれて、
しかも何故だか楽しそうだ。
「うん…思った…」
つい、そんなふうに素直に返事をしても
許されるのかなと思ってしまう程、
優しい声だった。
⌘
その次の日。
私は縁側に出る事をしなかった。
1日の終わりに、あそこで空を見上げるのが日課。
でも、あそこにいれば、
またあの人が来る。
簡単に、私の心を攫っていかれそうで怖い。
他の人と何が違うのか。
それもわからないのに、
あの人は何かが違っていた。
それがすごく嫌だ。
私の心を乱さないでほしい。
関わらないでほしい。
あんな、情熱のこもった目で見つめないでほしい。
私は雨戸に鍵をかけて、部屋を締め切った。
なんだか悪い事をしているような気になって
大きなため息をついた。
悪い事なんか、してない…
そう思った瞬間だ…。
「今日は月見ねぇのか?」
「ぎっいやぁああぁ‼︎」
誰もいないはずの家の中から
いきなり声をかけられ
私は思い切り叫びながら腰を抜かした。
さすがにまずいと思った声の主は
その場に崩れ落ちた私の目の前に膝をつき
両手で私のほっぺたを包み
蒼白の表情を確認した後
焦ったようにぎゅっと抱きしめた。
「そんな驚くかよ…!」
「あ、あ、…あぁ…」
驚くに決まってる。
誰もいないと思ってるんだから。
私は玄関にだってちゃんと鍵をする。
おばちゃんの言いつけ通りに。