第19章 思い出 ☆彡
月明かりが、
まるで街灯のように睦を照らす。
細い肩が震えて見えた。
あーあ…また、
何があったやら…
月見て泣くとか、かぐや姫かっての。
俺は足音を忍ばせて近づき手を伸ばす。
大きく背中を抱き込んだ瞬間、
はっとした睦は咄嗟に俺を押しやった。
…まぁ、当然の反応だ。
「…っ宇髄さん⁉︎」
肩に両手をかけて力を入れた。
こいつは俺を好いてねぇ。
この頃ほんの少しだけ、
意識してくれるようになった程度。
なのに泣いている時にこんな事をされ
ただ驚いて逃げ場を探す。
それでも睦を1人きりにしたくねぇ俺は
小さな体を押さえ込んだ。
「ちょっと!何をしてるんですか。
私のこと恋人か何かと勘違いしてませんか?」
少しイラついた声。
忌々しげにぺしぺしと
胸元を何度も叩いて抗議する。
「してねぇよ」
「ならこんな事やめて下さい!」
「…やめたくねぇ」
「宇髄さんは平気かもしれませんけど、
恋仲でもないのにこんな事されるの嫌です!」
…そうだろうなぁ。
睦にとっちゃ、
不快以外の何者でもねぇだろう。
でも、
「惚れた女が1人で泣いてんの、
ほっとけねぇんだよ」
はっきりと言い切った俺に、
睦は抵抗の手を緩めた。
それに追い討ちをかけるように
猛攻を仕掛ける。
「俺を頼って欲しい。
こんな淋しい場所で、1人で泣くな。
こうやって
誰かに抱きしめてもらうと安心するだろう?
その誰かが俺だったら良いと、思わねぇ?」
「…は、い…?」
困惑したように訊き返し
俺の胸の中で顎を引いたのがわかった。
自分の中で消化しきれない思いを抱えた証拠だ。
少しずつだが
俺なりにこいつの事がわかってきた。
「俺を好きになれ。
そうしたら、絶対に泣かせたりしねぇから」
言った途端に
びくりと、小さな身体が硬直したのがわかった。
意識してる。
今、思い切り。俺のこと。
「なぁ…黙ってねぇで、…こっち向けよ」
わざと耳元で囁いてやる。
これに弱い事は調査済み。
「…や、…やです…ッ」
クッと押される肩は申し訳程度。
少しだけ作った2人の距離。
背けた顔を覗き込むと、
フイっと逆方向に逸らされた。
本気で嫌がってるようには見えない…
照れてるだけ、だと思いたい。