第19章 思い出 ☆彡
私の中の大切な物が、
私の中にある柔らかい部分が
どんどん削られていく。
逆らっちゃいけない。
何も感じないようにしなくちゃ
自分がどんどん壊されていってしまう。
そんな事を考えた、私の幼少期。
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ふと気づくと、暖かい腕の中。
「ごめんな…ツラいこと…」
…優しい人。
私はもう大丈夫なのに。
「もう平気だよ」
「平気なワケねぇだろ…」
自分こそツラそうに言う。
「平気になったんだよ。
天元が、そうしてくれたんだもん」
感謝を込めて、強い抱擁。
私の言葉と共に更に埋まる互いの体。
あぁ、幸せだ。
「そうか。俺の、おかげか」
「うん。天元のおかげ。ありがと」
「俺がお前のためになったんならよかった」
それはだめです。
我慢できなくなっちゃうよ…
「泣き虫」
この台詞を、こいつに向けて何度言った事だろう。
俺の一言で涙をこぼした。
誰がどうだろうと、俺だけはお前の味方。
それをわかってくれたようだった。
よく笑いすぐ泣く睦。
俺の隣でころころ表情を変えるこいつから
目が離せない。
俺がちょっかいかけ始めた頃も、
睦はよく1人で泣いていた。
今日のような月夜は特に。
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町の中心を流れる
大きな川の流れに逆らって上っていくと、
春には見事な花を咲かせる大桜が立っている。
それを過ぎて少し行くと
林の入り口のすぐ手前に
ぽつんと小さな家が見えてくる。
そこが睦の家。
数年前から、ここに移り住んでいた。
自分の店を持ち3ヶ月目で実家を離れたのだ。
収入の見通しがついたのだろう。
なかなか順調らしい。
実家の支援ありきだろうけど。
黒い格子の、モダンな門。
その前に立ち、中の気配を窺った。
いつもなら縁側に座って空でも見上げている所。
1日の終わりに、
そうやって心を休めているのを
俺は何度も見ていた。
思った通り、睦は今日もそこに座って
じっと月を見上げていた。
今日は見事な満月。
高く上った月は景色を青く染めている。
縁側の縁に足を垂らし
両手をついていた睦が、
ふと膝を抱えそこに顔をうずめた。