第19章 思い出 ☆彡
「そんな…の、」
どうしたらいいかわからないように
言葉を詰まらせた。
その様子がなんだか可愛くて
俺は毒気を抜かれてしまい
「…ふ、そんなに困るなよ」
自分で言ったくせに
もうそんな事をさせる気は失せていた。
からかったつもりはないが、
そこまで困ってしまわれると
可哀想になってくる。
その雰囲気を察したのか、
睦は悔しそうに眉を寄せ
少し伸び上がって俺に口づけた。
「……睦?」
唇を離し、至近距離で俺を見つめるその目は
『どうだ』と言わんばかりに自信ありげだ。
…いやいや、口づけをされると素直に嬉しい。
だがな、
「…俺は『指で』って言ったんだが…」
その手で魔法をかけろと言ったはずが、
なぜこんな事になったのか。
まぁ、俺としては大歓迎…。
しかし睦は大真面目に
「この手に魔法なんかない。
天元が私を想う気持ちを信じて
これを癒しとしてもらうしか…」
そう応えて、
もう一度、ちゅっと口づけをくれた。
…確かに、こうしてると癒されるな。
あながち間違っちゃいねぇってことか。
特に異論のない俺は
いつまでも睦の好きなようにさせてやった。
⌘
そうして睦と俺は
弥生が昼寝から目覚めるまで
ひたすらいちゃついていたっけ。
あの後、どうやって弥生に渡したか
俺は知らねぇ。
渡したという報告も受けてねぇ。
もともと睦と弥生の間の話。
俺が口を挟む案件ではなかったので
特に追求をしようとは思っていなかった。
故に、このガラス玉のことは、
そこで止まっている話だったのだ。
思わぬ形でガラス玉と再開した俺は
驚きと共に嬉しくなった。
睦が心を込めて作った品が
しっかり弥生の手に渡り、
宝物とまで言ってもらえている。
俺は自分のことのように喜んでいた。
だが、それとこれとは話が別だ。
ここは弥生のためにも心を鬼にしよう。
「そうか…。弥生には弥生の言い分がある。
だが言っていい事と悪い事があるのも事実だ。
それは、もうわかってんだよな?」
「わかってる…。絶対言ったらダメな、こと…
お父さん、私ね、睦月のこと
大好きなんだよ?すごく可愛いの…」