第19章 思い出 ☆彡
睦ではなく、俺だった事に
少しホッとしたような目をして、
それでも次々と涙をこぼした。
「弥生…」
目の前にどかっと腰を落とす。
すると、
「お父さん、ごめんなさい。
私、ひどいこと言っちゃったよ、どうしよう…」
俺に何かを言われる前に先手を打って来やがった。
…要領いいヤツだ。
「謝る相手間違ってんだろ」
ぽんと頭に手を乗せた。
「うぅ…どうして…
あんなこと言うつもりなくて…」
「なくてもお前は言った。睦月は傷ついてる。
…睦も、同じだ」
「…おかあ、さん…」
呆然と一点を見つめ、弥生は更に泣いた。
睦に事の顛末を知られていることに
愕然としているようだ。
弥生にとって、睦は憧れだ。
その睦に、
自分のあるまじき姿を知られた事は
ひどくショックだろう。
でも、睦のそれとは比べ物にならない。
「当然だ。愛しい娘が、
まさかそんな暴言吐くとは思わねぇだろ」
睦の過去を隠しつつ弥生を諭す。
「…お父さんも知ってるの…」
「あー…悪ィな。俺は、聞こえちまっただけだ。
だいたいどうしてそんな事になった」
「私の宝物を、睦月がさわるから…」
弥生は涙を拭いてから顔を上げた。
「前にも…何度も言ったの。
大切なものだからって。さわらないでねって。
なのにあの子、今日もそれを持ってて…」
「…睦月がか?」
そんな事あるのか、あいつに限って…?
あの聞き分けのいい睦月が…。
「私だって意地悪で言ってるんじゃないの。
見せて欲しいって言われたら
ちゃんと見せてあげる。
ほんとに大事にしてるの。
壊されでもしたら…ほんとにイヤなの」
必死になって訴えてくる弥生。
……
「そんなに、大切なモンがあんのか?」
「……」
弥生は黙って立ち上がると
棚の上にある箱を手に取り戻ってきた。
明らかに、睦が手作りした、
装飾が施された綺麗な箱。
その蓋をぱかっと開けて中を俺に向けた。
「…それ…」
俺が睦に贈った蜻蛉玉に瓜二つの石だ。
あぁ、それ、覚えてる…。