第19章 思い出 ☆彡
あの時、弥生にも話したら、
あの子も跳び上がらんばかりに喜んだ。
『やいちゃんの大切な弟、一生大切にする!』
とまで言ったのだ。
その日からあの子は甘えなくなった。
出来ることは全て自分でやり、
お姉ちゃんになる準備を始めた。
そんな弥生が、あんな言葉を吐くなんて。
理由があるに決まっている。
その理由をうまく聞き出して、
上手に教えなくてはならない。
でも、私にそんな事ができるだろうか…。
頭ごなしに否定してしまいそうで怖い。
あの子が言った一言は、私にとっては驚異だ。
だからこそショックは大きいし、
私の手におえるかどうか…。
そんな事を悶々と考えていると、
襖の向こうで私を呼ぶ声がした。
やけに落ち着いた愛しい人の声。
ホッとして泣いてしまいそうだ。
睦月の手前、そんな事はしないけれど…。
「睦、俺に行かせてくれるか」
開きもしない襖の向こう。
優しい声の持ち主には、
すべて筒抜けだったようだ。
「…お願い、します」
何とか押し出した声。
その一言で
「任された」
全てを悟ってくれる彼がありがたかった…。
睦の淹れた茶を
自室で待っている時の事だ。
俺の部屋ではなく、隣の睦の部屋に
誰かが入る気配がした。
音を聴くに、どうやら睦と睦月だ。
毎度のことながら
盗み聞きをしているわけではない。
耳がいいってのは、時に厄介だ。
ほぼ、聞こえて来てしまう2人の会話。
ある一言に、俺はとんかちで
頭を殴られたくらいの衝撃を受けた。
『睦月なんかもういらない』
きっと俺以上に、睦はショックだっただろう。
あんなひどい言葉を、
愛する娘が、同じく愛する息子に叩きつけたのだ。
ガキの頃、実の母親から
ひどい扱いを受けていた睦。
自分も、そんな言葉を
浴びせられていたかもしれないのに…。
これは、睦には
対応し切れないのではないかと、
俺は立ち上がった。
弥生の部屋に行くと、
締め切って薄暗いそこに
小さな背中が震えていた。
それを見て、少し救われた気がした。
後悔しているのだということがわかったからだ。
わざと音を立てて足を踏み入れる。
びくっと飛び上がり、
涙に頬を濡らしてこちらを振り返った。