第19章 思い出 ☆彡
腕の中に睦月がいる事を思い出して
腕の力を緩めると、
ぎゅっと抱きついて来た睦月。
「かぁかいかないで!ぼくを…」
縋り付くような目。
…先にこの子か。何とかしなくちゃ…。
『ぼくを…』の続きが、私にはわかってしまう。
言われた事のある者にしかわからない、
不安と悲しみと焦りと…。
「つらかったねぇ睦月。
だいすきなお姉ちゃんに、そんなふうに言われて」
可哀想に。
…かわいそう…
でも、きっと弥生だって
悪気があったわけじゃないと思うんだ。
カッとなって、咄嗟に出た言葉だ。
だけどそれが、この子の心を傷つける。
「睦月はとっても大切な子だよ。
誰が何と言おうと、睦月は必要な子です。
ずっと一緒。離れたりしないよ」
ぎゅうっと抱きしめてあげる。
「ほんと…?」
何て、心細げな目をするんだろう。
「ぼくは、いる子?」
あぁ、何てことを言わせてしまったんだろう。
こんな小さな子の心を抉るなんて…
あってはいけない事なのに。
でもこれは、きょうだい喧嘩だ。
私とは、違う。
自分にそう言い聞かせ、何とか心を落ち着ける。
そうでもしないと、どうにかなってしまいそうだ。
「当たり前でしょう⁉︎
睦月がいるからお母さんは幸せなんだよ?」
そう、望まれて生まれて来た子だ。
今でも、はっきりと覚えてるよ。
⌘
桜の花舞う、あったかい季節。
どこからか
うちの庭にまで入り込んできた桜の花びらが
彩りを加えてくれて
私は足を止めてそれに見入っていた。
晴れた青空は私の心を洗ってくれる。
「なにしてる?」
当たり前のように私を捕まえて
頬を寄せる天元を見上げ、
「なにも…。桜が咲いたんだね…」
川沿いの、大桜を思い出す。
あの根本でよく夜桜を楽しんだっけ。
この人と何度か出会したこともあったな。
「そうだな、いい季節だ」
私が桜を好きな事を知っている天元は
風に舞う花びらを掴んでみせた。
「向かいの桜がここまで飛んでくるんだな」
手を開いて私に花びらを差し出す。
それを受け取り、淡い桜色を眺めた。
「お向いかぁ…。きれいだね」
はぁ、とため息をついた私を
不思議そうに見下ろして
「…調子悪ィのか?」
図星をついた。