第18章 嫉妬
小一時間で、
睦と睦月が戻ってきた。
その手には、酒。
「おかえりなさい!」
弥生は笑顔で出迎えて
「睦月、おもちゃ買ってもらったの?」
しゃがみ込むと睦月の手元を覗き込む。
「うん。こま…」
「姉ちゃんと庭でやろ!」
「うん!」
弥生は睦月を誘い、そのまま庭へと出て行った。
出て行く間際に、
俺のことをチラリと見てから。
うまくやれと言われた気がした。
どんな娘だよ。
チビらの消えた玄関。
シンとした空間に睦と2人残されて、
向こうもどう出たら良いのか
わからないようで、
俯き気味に式台に上がり
無言で下駄を揃えた。
「…ただいま…」
小さな声でぼそりと言うと、
俺の脇を抜けて行こうとする。
咄嗟にその腕をつかみ、
「一緒に行ってもいいか?」
なんとかそれだけ伝えた。
前を向いたまま少し考えて、
こくりと頷いたのを確認すると
するっと握り直した
睦の手を引いて
荷物を置くだろう台所へと向かった。
台所へ一歩踏み入った所で、
ツと睦の足が止まる。
反射的に振り返ると、
下を向いたままの睦が、
「あの…さっきは、ごめんなさい…」
肩を震わせた。
「待て…」
そんな睦を
暖めるように抱きしめた。
それでも俯いたままの睦。
よっぽど、落ち込んでいる。
「先に言うな」
「だって、私が悪いのに」
「俺も悪かった」
「天元は、弥生を可愛がっただけだよ」
「お前も睦月を可愛がっただけだ」
「私、可愛くなかった」
「…泣くな」
髪を撫でて、頬の涙を唇で拭ってやる。
「俺も、言いすぎた。
睦月相手に、睦は俺のだって、
バカな事を考えた。手に負えねぇよな」
「違う…私が、…」
「違わねぇ。睦は、
弥生に嫉妬して可愛かった。でも、
嫉妬させたかったわけじゃねぇよ?」
「わかってる…私が勝手に、意地を…」
涙でうまく言葉を紡げない睦は
必死に涙を拭う。
「こら、こするな。こっち向け」
なかなか目を合わせようとしない睦の顔に
両手を添えて上向かせる。