第18章 嫉妬
それをつかまえ、
何も言わずに再び唇を寄せる俺の頬を
ぐいっと押しやり
「やだ…っ」
強い意志を持って拒絶する。
おもしろくねぇ俺は思い切り顔をしかめた。
「何でだよ」
「何でも」
「そんなん答えになってねぇ」
ぐっと迫る俺。
「私が絆されると思って…っ」
それを思い切り押し返す睦。
「お前な…んなこと思うわけねぇだろ。
だいたい俺にぞっこんなくせに」
更に迫る。
「うるさいな、だからって
いつも思い通りになるなんて思わないでっ」
そして押し返される。
「思い通りにしようなんて思ってねぇよ!
でも素直に甘える女は可愛いだろ。
素直んなれよっ」
「どうせ可愛くないよ!
私が、素直になりたいと思うように
してみなさいよ…っ」
あー、これじゃ意地の張り合いだ。
そろそろ折れなきゃまずいと思った
ちょうどその時…
「かぁか‼︎」
台所に響き渡る程の大声が耳を直撃した。
俺も睦も、組み合った体制のまま
固まって、入り口の方に目をやった。
すると鬼の形相の睦月が仁王立ちしていた。
睦月はツカツカと俺たちのそばに寄り、
全身を使って俺を押しのけた。
…もちろん、こいつにそんな力はないし、
俺から退いてやったのが大半だ。
俺と睦の間に入り、
両手を広げて睦を庇うと
「かぁかをいじめちゃダメ‼︎」
普段はおとなしく、
聞こえないくらいの声しか出さねぇ睦月が、
俺を睨みつけ怒っていた。
俺も睦も呆然として睦月を見下ろす。
幼い用心棒に守られて、
心なしか嬉しそうな睦。
「…おい、お前だって
人のこと言えねぇじゃねぇか」
こんなチビに守られて喜びやがって。
睦はそんな俺をひと睨みすると、
「ごめんね睦月。そんなんじゃないから…」
「かぁかのかなしいこえがした!」
「えぇ…?」
「かぁかの、かなしいこえきこえた。
とぅとがいじめた!」
このチビ、耳がいい。
奇しくも…俺と同じ。
「いじめてねぇわ!むしろ仲良しだ!」
俺の大声を聞けば
いつもなら怖がって逃げ出す睦月が、
今日は睦を守る格好のまま
眉ひとつ動かしゃしねぇ。