第18章 嫉妬
…ごはんを食べた気がしない。
しつこく邪念を振り払えずにいた私は
心の中を黒いもので支配され、
甘く作ったはずの玉子焼きの味すら
わからない始末…。
私は、どれだけあの人に恋してるんだろう。
この状況でこの気持ち…
自分でもおかしいと思う。
余裕であしらってもいいくらいの…
いや、あしらわなくてはならない程
可愛い気持ちだ。
娘が、自分の父親と結婚したいとか、
父冥利に尽きる……のか?
お皿を片付けながら
私は重たい気持ちを引きずっていた。
その時、
「睦月も食い終わったぞ」
最後まで食べていた睦月の分の食器を
まとめて持ってきてくれた天元が
台所に入って来た。
…気まずいわ。
「がんばって食ってた。
無理すんなって言ったんだが、
残さないってさ」
「そう。…ありがと」
その食器を受け取って、
私は流し台に置いた。
「2人は?」
「庭で遊んでる」
「そっか…。お腹大丈夫なのかな…」
食べた後にすぐ駆け回ったりしたら
腹痛を起こしそうだ。
「大丈夫なんじゃねぇの」
そう言った彼の声が、
やけに近くに聞こえた気がして
何となく顔だけ振り向くと
彼の胸元に視界を塞がれた。
ハッと見上げた時には
背中から抱きしめられていて、
逃げる隙すらなかった。
「なぁ、」
そらせないよう顎をつかまれ
ぐっと顔を寄せられる。
やけに嬉しそうな表情を見て、
何を言われるのか、
おおよその想像がついた。
咄嗟に目を伏せた私を窘めるように
「おーい」
不満たっぷりな声を上げた。
仕方なしに目を合わせると
上機嫌で額を擦り寄せ
「弥生に妬いただろ」
低く囁く。
…やっぱり。そう言われると思ったよ。
「妬いた、んじゃなくて…びっくりしたの」
「ふぅん…可愛いの…」
また…。
この人の『可愛い』のツボがまったくわからない。
そんな事を思いながらも、
彼の腕から逃れられずにいた。
角度を変えて
娘にまでやきもちを妬く睦に
ちゅっと口づけた。
弥生が俺と結婚するんだと言った時、
『やだ!』と
俺を守るように抱きついてきた睦。