第18章 嫉妬
「いいよ」
「やった!私にもできるかなぁ?」
「作ってみる?」
「…いい。見てる」
自信なさげに言う弥生がおかしくて
私はつい、笑ってしまった。
魚も焼いてごはんが出来上がる頃、
台所に天元が戻ってきた。
私の頭にぽんと手を乗せて
「メシ出来た?」
手元を覗き込む。
「……睦月は?」
「テーブル拭いてる」
「あら、ありがたい」
私がお皿をお盆に乗せていくのを見ていた天元は
ふと、弥生に目を向けて
「お、弥生も上手に出来たか?」
にこにこと笑う。
「うん!お母さんにも褒めてもらったよ」
「そりゃ良かったなぁ。
手伝いができると、母さんも助かるだろ」
「……」
不意に黙った弥生。
あれ?
「…私の、お手伝いしてくれるつもりだった?」
弥生の反応からして、
ちょっと違うような…
「違うよ。お父さんのために作ったんだ」
「は?俺?」
目を丸くする天元に、
「うん!だって私、お父さんと結婚するんだもん」
弥生は元気いっぱいそう言った。
「えぇッ!やだ!」
あんまりまっすぐにそんな事を言われ、
私は咄嗟に、天元を取られまいと抱きしめた。
……
「あ……」
2人の視線が痛い…。
「ち、違う違う。ごめんね、」
私は天元から離れ、
ごまかすようにくるりと2人に背中を向けた。
くくっと、天元の嬉しそうな笑い声。
まったく、私は何をやってるんだ。
娘の言ったことじゃないの。
それを一瞬とはいえ
真に受けるとかあり得ない…。
「弥生、ありがとな。
いつまでそんなふうに言ってくれるかな」
まるで、そんな事を言うのなんか今だけだと
私に言い聞かせているようだった。
…うん、わかってるよ。
「ずっとだよ!」
「そうかよ。そりゃ嬉しいな」
天元の優しい声が私の耳の奥に響いている。
…弥生が大きくなってきて、
もっと成長して、…同じことを言うとは思わない。
それでも、ちょっと…いや、かなりもやもやする。
安泰だと思っていた私の恋心に
思わぬ強敵が現れた…
だって弥生は…可愛いもの…
…ダメだ!
私はおかしい!
邪念を払拭出来ない私は
お盆を手に台所を後にするしかなかった。