第18章 嫉妬
睦月が弥生の様子がおかしい事に気づき
その原因の布団を覗き込む。
「かぁか?」
睦の姿を見つけた睦月が
そこに抱きつこうとした途端、
「睦月!お母さん寝てるから!
寝かせてあげよ!ね!」
弥生がひそひそ声で叫んだ。
ここへ来るまでの間に犯した数々の無作法を
なかった事にしたい弥生は
必死で睦月を説得している。
睦は睦で、
すべて聞こえているのに
自分の状況があまりに不利なおかげで
声もあげられずにいた。
本当なら弥生のことを叱りつけたいだろうに。
「お父さん、いつもの!
お願いします!」
それでもぺこりと頭を下げた弥生。
ちゃんと礼儀正しく育ってる。
「おぅ。お願いされた」
なぜだか嬉しくなった俺は
清々しい気持ちで、怠い体を持ち上げた。
「やった!ありがと!」
睦そっくりな顔を元気に笑わせて
弥生は両手を挙げて喜んだ。
こっちはこっちで可愛いな。
先に立って部屋を出ていく弥生、
それに続く睦月、
更にそれを追いかける俺は
掛け布団に身を隠す睦をちらりと見やり
「ゆっくり起きて来いよ…」
ぽんと頭を撫でた。
ゆっくり、と言われても、
こんな状況に置かれては
私の性格上ムリな話。
3人が出ていった部屋。
静かになったそこで、
私は怠い体を持ち上げた。
関節という関節が、軋んでいる。
天元…体力おばけ…
難なく立ち上がっていった彼の姿を思い出し
何となく悔しい気持ちが込み上げて来て
私はそれを力に変えて立ち上がった。
腰に違和感…
骨が縮んだみたいだ…
鈍痛が襲う体を何とか動かして、
私は自分の部屋に向かう。
着替えをしなくては…
それから朝ごはん…
あれ…?
あの子達、天元に何をお願いしてたんだろ…
きゅっと帯を締めて
顔を洗うと、私は台所へと向かった。
エプロンの紐を結び気合いを入れたが…
台所には先客がいた。
辺りはお味噌汁のいい香りが漂っていて
台の上に立った弥生が思い切り背伸びをし
小皿に流したお味噌汁を
天元に飲ませている所だった。
「……」
なぜか。
よくはわからないけれど、
見てはいけない場面を見てしまったような気がして
私は台所には入らず壁に隠れた。