第17章 愛月撤灯
「まって、おねが、い、」
「…んー…ソレは、
俺がお前を愛するより大切な事か…?」
舌先で耳の形をなぞった途端、
びくっと大きく体を震わせた。
「ん…すごく…」
……。
この世で、俺が
睦を愛でるより大切なことって何だ!
「ホントだろうな…」
声に怒りがこもる。
「…きっと」
「きっと?きっとだと?その程度で…」
「聞いてほしいの!」
振り返った睦な瞳はひどく切実で
俺は口をつぐんだ。
……
「大した話じゃなかったら、後で覚えとけよ…」
睦に触れられると思ったのを阻まれて
不機嫌丸出しの俺をなだめるように
睦は俺の頬に口づけをした。
「ごめんね。あの…
本当は話すのはまだ早いと思ったんだけど」
そう言い置いて、睦はひとつ深呼吸。
「今日、しのぶさんと会ったでしょう?
その時、色々お話ししたの」
「…そういえば鉄剤飲んだのか?」
「うん、さっき飲んだ」
「おぉ、1人で飲めたのか」
「…うん。もう甘えてばかりいられないもん」
「…何でだよ。そんな淋しいこと言うなよ」
俺は遅ればせながら、
ご褒美として睦に口づけた。
「あ…、」
睦はびっくりして身を引く。
「話が、途中なの…っ」
頬を真っ赤にして抗議しても
やっぱり可愛いだけだ。
「わかってるよ。今のは約束の分だろ」
「……」
「…で?」
話の先を誘うと
睦は気を取り直したように
佇まいを直した。
「あの時ね、
ほんとは彼女の家に連れて行かれたんだ。
そこでお薬をもらって。
他にいつもと違う所はないかって訊かれたの」
「ふぅん」
長くなりそうな話だな…。
「だから最近のおかしな所、全部言ったんだ」
「おかしな所?」
「うん。…えっと、すぐに泣いちゃうのとか
眩暈がひどいのとか
吐いちゃうくらいたくさん食べてしまう事も」
…確かになぁ。
ちょいちょいおかしいとこあるよな。
「そしたらしのぶさん、
急に熱はかったり、脈をみたりするの。
私、貧血だけじゃなくて、
他にも悪い所があるんだって思ったんだ」