第17章 愛月撤灯
睦の希望で
本当に芝居を楽しんで
和食の料亭に寄って、
土産にカステラなんか買ってうちへ戻った。
まだ寝るには早く、
興奮冷めやらぬ睦と
熱い茶をすすりながら
さっき見た芝居の話に花を咲かせていると
知らぬ間に随分と時間が過ぎていて…
「睦、休むか」
船を漕ぎ出した睦に声をかける。
ハッと気がついた睦は
目をこすりながら
「うん…でも、まだこうしていたいな…」
眠そうに言った。
「そんなに楽しかったか?」
「楽しかった」
「でもなぁ、今日昼寝もしてねぇしな」
「そうか…だからこんなに眠たいのかな…」
「そうかもしれねぇな。
でもまぁ、この後もう寝るだけだから」
「起きててもいい?」
…子どもとしてる会話みてぇだな。
「あぁ、もし寝ちまったら
寝床まで運んでやるよ」
「うん、ありがと…。
——楽しい事が終わっちゃうのは淋しいね…」
隣に座っていた睦が
俺に向かって両手を伸ばす。
それを絡め取って抱きしめてやり、
「そうだな。また行こうな…」
励ますように力を込めた。
「……」
無言になった睦。
寝てしまったかと、そっと覗き込むと、
何かを考え込んでいるかのように
どこか一点を見つめていた。
「睦…?」
名を呼んでも、何の反応もない。
「おい睦」
背中をポンと叩いてやると
ぱちりと瞬きをして
「はい!」
慌てて返事をする。
「俺といるのに、最近ボーっとしてばっかだな」
気に食わねぇ俺は、
睦の心をこちらに向けようと、
いつものいたずらに走った。
長い髪をよけ、唇でうなじをくすぐる。
「や、…わ、わかったから!ごめんなさい」
睦は
俺の肩を握り込んで謝った。
その手に力を入れて、
腕をつっぱろうと必死だ。
…俺にとっては赤子の抵抗のようなモノ。
唇を耳に移動させると
微々たる力はほぼ皆無になった。
「っ…やめて天元、は、話が、あるの…!」
コトを進行させないための口実だと思った俺は
大して相手にせず、睦の耳に噛み付いた。