第17章 愛月撤灯
俺は睦の頭にぽんと手を置いた。
さっきよりは元気か?
そう感じて、
いくらかホッとした俺の手に
睦は指を絡め、ぎゅっと握った。
ふと見やると、前を向いたまま、
何かを考え込んでいる様子で
遠い目をしている。
「…何かあったんか」
…素直に言うとは思えねぇが
一応訊いてみた。
「うん…わからないの…」
「…は…?」
「あ、ごめん。ぼーっとしちゃって。大丈夫」
こちらを見上げて笑顔を作る。
最初に言った『わからない』は本心だろう。
最後の『大丈夫』は取り繕った。
…そうか、わからねぇのか…。
睦がわからねぇ事を追求しても仕方ねぇ。
なら…。
「睦、今日はどっか
うまいモンでも食いに行くか」
「え?」
「毎日、こんを詰めててもつまらねぇだろ。
たまには息抜きしてぇよな」
「…いいの?」
驚きと、少し期待の込めた表情。
素直だな。
「芝居なんか見ても楽しそうだな…」
「いいの⁉︎」
「くく…行きてぇんだ」
「…ちょっとだけ」
にこっと照れる睦が
繋いだ手を引く。
「じゃあ部屋で待ってて!
残った洗い物すませてくるから」
「やっといたから、支度して来い」
俺を引っぱっていた睦の足が止まり
くるりとこちらを向いた。
「……」
「何だ、聞こえたか?終わらせといたぞ?」
睦は呆けていた目を
嬉しそうに細めていく。
「ありがとう」
幸せそうに良い、俺を力いっぱい抱きしめる。
だから、
俺もそれ以上に抱きしめてやる。
「あぁ?ほら、早く行こう。
支度、あるだろ?」
「うん!」
元気に返事をして、
睦は部屋へと戻って行った。
胡蝶に話を聞いてもらった効果なのか。
それとも久しぶりのオデカケに浮かれたのか。
何にせよ、気持ちも浮上したようでよかった。
支度をしに行った後ろ姿は
ひどく幸せそうに見えた。
ただ、睦の最近の不安定の原因は
その時の俺にはわかっていなかった。
判明するのは、その日の夜のこと。