第17章 愛月撤灯
…お渡しした物?
「あ…は、はい!ありがとうございました!」
睦はこちらを気にしながら
慌てたように礼を述べた。
胡蝶は俺に、意味ありげな視線を寄越し
会釈をすると去って行った。
何だったんだ…
「…睦、おかえりな」
「……」
「…睦?おい、上がらねぇのか?」
下から見上げたまま、肩を軽く揺さぶると
睦はようやく
状況を把握したようで、
「ごめん、ただいま」
多少、力のある声を出した。
肩を並べて廊下を歩きながら、
「胡蝶に何もらったんだ?」
気になっていたことを訊く。
「あぁ、鉄剤っていうのをもらったの。
私は貧血じゃ、ないか、って…」
…言葉が尻つぼみになっていく。
明らかに…お前なんか隠してんだろ。
最近、秘密が多いねぇ…
「…診察してもらいに行ったのか?」
「ううん、買い物に行ったら
偶然しのぶさんに会ってね、
私の事を見た途端に、
貧血おこしてるって気づいてくれたみたいで…」
「それで、鉄剤飲めって?」
「うん…」
「さすがだな。……で?」
「…?」
「そんだけじゃねぇんだろ?」
「それ、だけ」
…そんな動揺たっぷりに否定されてもなぁ。
信じろって方がムリだろ。
でも、
「コレ…飲まなきゃだめ、だよね…」
薬という壁を乗り越えようとしている睦を
目の当たりにしてしまうと、
もうそっちをどうにかしてやらなければと思い
俺の頭は切り替わってしまう。
追求は後回しだ。
「胡蝶が言うくらいだ。
飲んだ方がいいんだろうなぁ。
お前の調子が上がんなら
俺も協力を惜しまねぇが…」
薬を飲んだ時のご褒美…
忘れていないことを伝えると
「……うん」
嬉しそうに頬を染める。
…ちょっと
そこの、可愛いお嬢さん。
襲ってもいいでスかね?
この可愛さに気づいてねぇ睦は
罪の塊だ。
「天元がいてくれるなら、がんばる」
そう言って拳を握る睦が愛しくて
俺は優しい気持ちになっていく。
負けた負けた。
お手上げだよ。
無垢さでこいつの右に出るヤツはいねぇ。
抱かれる時の色香がウソのようだ。