第17章 愛月撤灯
じゃあ何だろう…
「あの、私はなぜ…」
ただ友人を招いた、というふうでもなかった。
「いえ、大したことではありません。
こちらを…」
テーブルの上に乗せられたのは
いくつかの小さな包み。
見慣れないそれは……何だろう。
「これ何ですか?」
しのぶさんはにっこりと笑みを深めた。
「鉄剤です」
「てつ?」
「はい。鉄です。
時に睦さん、
少しお痩せになりましたね。
顔色もあまりよろしくありません。
お元気そうに見えますが、
…最近何かお変わりありませんか?」
「……」
「…睦さん?」
…はっ!
「はいっ。しのぶさん、さすがですね。
私、今日は絶好調のつもりでいたんです。
なのに…」
「お顔を拝見した時、
貧血の気があるように思いました」
「そうなんです。
最近、眩暈が多くって…
ひどい時は立てなくなる時もあるんです」
「それはお困りでしょう。
急なことなのですか?」
「はい、眩暈なんて今まで
した事ありませんでした」
「そうですか。
…ご飯は召し上がっていますか?」
「はい!まぁ…食べたり食べなかったりですが、
でもそれは昔からの事なので…」
「食べる事ができているのなら大丈夫かと…。
少しふらついていましたし顔色が優れない…
眩暈もあるようでしたら
睦さんは貧血をおこしているように
思います。
そうでなくとも女性には欠かせないものです。
差し上げますのでお飲みになって下さい。
これで眩暈も改善できれば儲けものですよ」
うふふと可愛らしく笑いながら
しのぶさんはテーブルの上の包みを
袋にひとまとめにして私の手に握らせる。
「えっ、お薬をいただくわけにはいきません!
ちゃんとお代を…」
「こちらこそ、睦さんから
お代をいただくわけには参りません。
大切なお友達ですもの。
私のお節介だと思って受け取って下さいな」
「えぇ…いいんでしょうか…」
「いいんですよ。
大切な人を助けるために使えるのであれば
私は本望です」
しのぶさんの言葉を聞いて、
私は感動していた。
なんてよくできた人なのか。
だって、お金はその人のがんばりへの対価だ。