第17章 愛月撤灯
今日、そんなに暑いか…。
いや、確か寝る前に、
「寒くねぇか?」
俺はそう訊いたくらいだ。
それに対して睦も
「あったかい」
と答えた筈。
…夢見でも悪かったか。
俺のことを『あなた』と呼んだ。
明らかに、俺を避けていた。
汗をかいているから、なんて、
うまくごまかした気でいるのかもしれねぇが
俺はそんなに甘かねぇぞ睦。
お前の全てに気づけるようになりてぇんだ。
でも、言われなきゃわからねぇ事もある。
お前の気持ちは汲んでやれても、
起こったことはわからねぇ。特に、
夢の内容なんて…。
…追いかけて聞き出してぇが、
そんなことをしても、
お前は逆に心を閉ざすだろうなぁ。
…頼むから、一人で抱え込むなよ。
俺を頼れ。
それがどんなに、言いにくい事だとしても…。
昼メシができたら呼びに来るだろうと
踏んでいた俺は、
睦が逃げたとわかっていながら
追うことをしなかった。
次に顔を合わせた時、
睦が話すのなら全力で聞いてやろう。
話さねぇのなら、
機を待とうと心に決めたからだ。
できれば、前者がいい。
だがあいつの性格上、後者の可能性が高い。
あんだけ怯えていた。
少し時間と距離を置いて、
落ち着かせてやるべきだ…。
しかし、待てど暮らせど、
昼メシの便りは届かなかった。
心配になった俺は
睦の部屋の前に立ち、中の様子を窺った。
「…睦?入るぞ?」
少しだけ襖を引くと
部屋の端にうずくまっている睦が
目に飛び込んできた。
「睦!」
慌てて駆け寄り
うつぶせでうずくまる睦を抱き起す。
「…ん…天元…?」
意識はあるようでホッとした。
「あぁ俺だ。どうしたんだ睦、
お前いつからこんな…」
俺は泣きたくなった。
近頃のこいつは、あまりに痛々しい。
どこか悪ィのか。
それとも俺のせいか。
何か追い詰めるような事したか?
「…ごめんね…」
弱々しい声。
何の事を謝っているのかさっぱりわからねぇ。
「だから謝んなよ!」
大きな声を出す俺に
少し目を見開いた。
余裕がないせいか、
もう怯えてはいないようだった。