第1章 嚆矢濫觴
今日から、少し長めの任務だと言っていた宇髄さんと別れ、
私はある場所へと向かっていた。
私の家から少し離れた、
小高い丘の上の墓地。
1人で行くのは、初めての事だ。
太陽は高く昇り、
山の方からは小鳥のさえずり。
絵に描いたような、春の陽気。
そよ風は私の背を押すように流れて行き、
私に、
怖くないよと、話しかけてくれているよう。
そんなの私の、勝手な願望でしかないけれど…。
私、行けるかな。
ちょっと勇気が出ない…。
けれど。
風よ、鳥よ、
この春の日すべて、私を、助けてね。
弱虫の私が、一歩踏み出すのを、見ていてね。
痛む足を引きずって、
土を削って作ったような階段を上り切ると、
遠く広がる丘からの景色が
視界いっぱいに広がった。
気持ちいい。
私は色々ごまかすように、大きく息を吸いこんだ。
そして、ちらりと、そちらに目を向ける。
さほど大きくもない、墓石。
石には、私の母親の名が刻まれている。
私はそれに、そろりと近づいて、
そこへしゃがみ込んだ。
ふと隣を見ると、
幼い頃に私が積み上げた、小さなの石の塔。
それを作った時のことを思い出して
つい笑ってしまう。
我ながら微笑ましい。
父の為の、自作の墓だ。
おじちゃんとおばちゃんが
真面目に墓参りしている横で、
私はこんな物を作ったのだ。
2人も、バカにせず、
倒れないよう、試行錯誤して補強してくれたっけ。
私は我に返り、母の墓に向き直る。
持ってきた花と、さっき作ったお団子を供えた。
目を閉じて、手を合わせる。
お母さん、ずっと来なくてごめんね。
おじちゃんもおばちゃんも、
ここまで来るのが大変になってしまったよ。
私は1人で来る勇気も出ず、
こんなに時が経っちゃった。
1人ぼっちにして、ごめんね。
そして私は、隣の小さなお墓に向かい合う。
同じお花と、お団子を供えて、また手を合わせる。
お父さんも、遅くなってごめんね。
でも、忘れたりしてないからね。
ねぇ、お父さん。
私初めて、大切な人ができたよ。
2人に、会ってもらいたかったな。