第17章 愛月撤灯
「どうしたんだ、突然そんな話」
「…一回思い出すとね、わぁーって…
いろいろ思い出しちゃって。
そういえばあれを伝えてなかったなとか
これも言ってなかったなとか…。
ちゃんと、わかってもらいたくなっちゃって。
だってあの時、ああ言ってもらったおかげで、
私は初めて、家族じゃない人から
幸せをもらったんだ」
初めて…。
なぜだかそのフレーズに、心震えた。
「…あんなの、ただの自分勝手だ。
俺がそうしたかっただけのこと。お前を
俺の手元に置いておきたかっただけだ」
俺にメシを分けてくれた。
命を吹き込んでくれた。
優しくて無邪気で可愛いあの日のお前に
そばにいてもらうためのテイのいい欺瞞だ。
「天元がどんなつもりで言ったとしても、
私はそれで幸せになった。
だから、それでいいの」
睦は俺の意図はまるでムシ。
自分のいいように解釈すると決めたようだ。
呑気なもので、俺の指に
自分のそれを絡めては握り、
そうやって弄んでいる。
「睦、」
愛しい名を口にすると、
ぎゅっと俺の手は握りしめられた。
そろりと目を上げ、
「ん?」
ふわりと微笑んだ。
「もう、いいのか…?胸焼けは」
前髪をよけて、そこに唇を押し当てる。
「…こうしてると、忘れちゃうみたい」
「治ってねぇの?」
「どうかな…大丈夫かも。
…私もたいがい現金だね」
自嘲する睦を
こちらに向けさせて、
「…口づけしたら、だめか?」
ねだってみた。
「…え、それは、さすがに…」
「睦…」
「な、に…?」
「いい?」
しつこく訊くと、
睦は困ったような目をした。
「私、こんな状態だったのに、
天元こそいやでしょ…?」
「何が。睦なのに
イヤなわけねぇだろ…」
「えぇ…」
「体調悪ィのにムリはさせたくねぇんだ、
ムリするくらいなら、はっきりと言え」
「………一回だけ、なら…っ!」
許可が降りた瞬間に唇を塞ぐ。
可愛い。
あんな事を言うんだから、
それなりの覚悟はしておいてほしかった。