第17章 愛月撤灯
「…そういえば、
よくお父さんとさんぽ行ったなぁ…」
だから、今でもさんぽ好きなのかな。
私は天ぷら粉を溶きながら1人考えた。
…楽しかったもんな。
途中の道端に生えている、
ハート型が4枚くっついた大きな草で
提灯を作って絡ませて引っ張って、
どれが1番強いか大将を決めて遊んだっけ。
「…だからサンポ好きなのか?」
「ぅわっ!びっくりした!」
急に背中から声をかけられた。
見上げると、私の手元を覗き込む天元。
「いーなぁ、オトーサンとサンポ…」
気持ちは私の手元に行っているため、
言葉は上の空…
まったくそんなこと思っていないような台詞。
「今日の?」
「…うん、今日の。天ぷら」
「睦の天ぷら、
店のより美味いから好きだ」
嬉しそうに言ってくれ、
私は安心した。
「お店のより、ってことはないと思うけど…
天元がいいなら良かった」
思い切り色眼鏡で見てるけど、
この人はウソつかないから。
「サンポ、どこ行ったんだ?」
「はい…?」
いつもの事ながら
話題転換が激しくて、
咄嗟に頭がついていけない。
「オトーサン」
「あぁ!あちこちだよ。
山に行った事もあるし、街を歩いた時もあるし。
楽しい事でも覚えてるものだねぇ」
「……」
彼が黙ったのを見て
しまったと思った。
『楽しいコトでも』なんて
そんな台詞、言うべきじゃなかったよね。
まだ昔を引きずってるみたいな言い方…
「あ、山が好きだよ!
たくさん動物がいて、お父さん
よく知ってるの。特に野鳥に詳しくて」
私はごまかすように饒舌になった。
…そんなのにごまかされる人じゃないけれど。
「鳥か…。一緒に旅した時も、鳥に懐かれてたな」
天元はにこっとして
ポンポンと頭を撫でながら言った。
……
「うん。私、
そのおかげで鳥が大好きになったんだ。
中でもオオルリは特に好き」
「そうなのか」
「山で見かけたことがあるの。
深くて澄んだ青色の羽なんだよ。
あれはオオルリだって、
お父さんが教えてくれたの」
「オオルリ…」
「うん。そしたら偶然、その次の日に
オオルリが私の部屋に遊びに来て
羽を落として行ったんだ」