第17章 愛月撤灯
「お前ちゃんと拒否しろよ。
でないと俺、丸一日こんなことしてるぞ」
あんまりにも嬉しそうに言うから、
「今日はいいの。ずっと、こうしてる」
私もそれに乗っかった。
天元は、私の様子が
いつもと違うなと思ったに違いない。
でも愛しいひと相手に、
いつも拒むだけの私じゃないよ。
天元は、さっきの言葉通り、
暗くなるまでずっと私を抱えていた。
私も離れる事なく
おとなしくそこに収まっていたのだった。
——私がまだ小さかった頃。
自分の部屋が全てだったあの頃。
ある晴れた昼下がり。
濃い青色の鳥が、私の部屋に遊びに来た。
小鳥が来たのは初めてじゃないし
たくさんの動物が寄り道をしていくから
そんなに驚く事じゃない。
でも、こんなに綺麗な色の鳥は見た事がなくて
私はつい、声を上げてしまった。
驚かさないように、慌てて手で口を塞ぎ
ゆっくりと指を差し出した。
うまく、ここに乗ってほしくって。
そしたらその子は、
小さな首を傾げながら私の前まで来て、
その指にちょこんと乗ってくれたのだ。
私は嬉しくて、可愛くて…
でも触ったら逃げてしまうような気がして
頭を撫でることはしなかった。
上方から聞こえた小さな囀りに、
そちらを見やると
同じ色をした小鳥がそこにいて、
私を恐れたのかすぐにいなくなってしまった。
——お友達なのか、兄弟なのか…
まるで、私の手の上のこの子を
迎えに来たかのようだった。
証拠に、その子を追うようにして、
私の指の上からサッと飛び去ってしまった。
私の足元には、一枚の羽が落ちていた。
あの子の、置き土産。
なんてきれいな羽だろう…
私はそれを、宝物を扱うように手に取って
日に透かして見てみた。
深い青色。
あの鳥、知ってる。
山に行った時、お父さんに教えてもらったもん。
きれいな羽、もらってもいいかなぁ?
私はそれをそっと懐に忍ばせた。
特別なお守りをもらったような気になって
その日からそれを眺めるのが
楽しい日課になった。
それから私は、
その色が大好きになった。
ちょうど、あの日に着ていた天元の着物の色。
あれを見るまですっかり忘れてた。
勝色の羽織のおかげで
落ち着いて見えるあの着物。
素敵だったなぁ…。