第1章 嚆矢濫觴
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隣で眠る睦を見つめながら、
さっきまでの事を考える。
一仕事終え、
たまたま方向が一緒になった胡蝶と2人。
睦の店のある商店街を歩いていた。
「宇髄さん、いつもと方向が違いますねぇ?
いつもならご自宅にまっしぐらなのに」
意味深に微笑みかけてくる胡蝶を
軽くあしらっていると、
ふと目をやった先に睦が見えた、気がした。
『気がした』理由としては、
睦が、物陰に隠れたからだ。
でも、この俺が見まごうはずもなく、…
今のは間違いなく睦だった。
「胡蝶、悪ィ、先行くわ」
一言告げると俺は、
その建物に走り寄った。
案の定、そこには睦がいて、
何やら言い訳めいた事をぶつぶつ言った末に、
俺から逃げ出そうとしやがる。
こいつは本気で、
俺から逃げられると思ってやがんのか。
それとも、逃げられねぇとわかってて逃げてんのか。
何だ、つかまえてごらんアハハの世界か。
なめんなよと言いたいが、
どうやらこれは妬いてるぞ。
きっと、てめえでも気づいちゃいねぇ。へぇ……。
怪我をさせちまった睦を運んで
包帯を巻いている間、
おとなしくしていると思ってはいたが、
俺に刺さる視線が痛ェ。
そりゃ俺も悪かったがよ、
そこまで逃げなくてもよかったんじゃねえか?
こっそり傷ついていると、
それを知ってか知らずか
睦の視線がやけに熱っぽく感じた。
少し窺うと、
思い切り視線がかち合って…
しかもこいつ、ひどく惚けた顔してやがる。
今その顔はやべぇんだって…
俺はもう、
睦が俺のこと好いてくれてんじゃねえかっていう期待と、手の届く所に睦がいて
しかも2人きりだっていう状況に、
ほぼ理性を失っていた。
ただ、睦はもう、
絶対ぇ泣かせねえという
その一点だけが、最後の砦だった。
手を出すつもりなんかさらさら無かったが…
胸だけでよく堪えたと、
全世界から称賛を浴びたいくらいだ。
…それにしても睦、いい体してやがった。
あの着物の下に
あんなモン隠してるとは思いもしなかった。
甘露寺に勝るとも劣らない…なんて
死んでも言えねぇや。
何はなくとも、次は最後までできるといいな…
と、邪な事を考えながら
眠りにつくのだった。