第17章 愛月撤灯
驚いて目を開き、
こちらを見上げる顔が
徐々に染まっていった。
「急に何言うの」
ぷいっと正面を向いてしまう。
…あれー?
どうしたこいつ…
行動に脈絡がねぇ。読めねぇな…。
「何か買うのか?」
「んー?んー…何かあれば」
…何もねぇヤツだ。
ほんと、相変わらずほしがらねぇ。
いらねぇモンをムリヤリ買う必要もねぇけど
やっぱりつまらねぇなー…
「今日はお買い物じゃなくて
ただのおさんぽだからいいの」
俺の考えを読んだ睦がぴしゃりと言った。
「はいはい、つまんねぇの」
隙あらば、の俺は
いつでも買ってやる準備があるってのに。
いろんな店に顔を出し、
食い物を扱う店では試食試飲を勧められ
着物、装飾の店では試着をして
みんなが睦に色んなものを勧め褒めるのに
『ありがとう』の一言で黙らせてしまうこいつは、
「魔性だ」
つい、心の声が口をつく。
「はい?」
聞こえていなかったのが幸いだ。
「なんもねぇ。…
何か1つでも買ってやりゃいいのに」
店のヤツらも浮かばれねぇな。
「そんなにホイホイ買っちゃダメよ」
にっこり笑う睦は、真の魔性の女。
俺までたぶらかしてどうする。
そんな事をして遊んでいるうちに、
睦の息が上がっている事に気づいた。
「…なぁ、ちょっとそこの茶屋で
休憩しようぜ」
なんとなくを装って睦を誘うと
二つ返事で了承してくれる。
席に着くと、睦は大きなため息をついた。
だいぶ疲れているようだ。
はしゃいでいたからか?
「大丈夫か?」
なんて訊いてみるが
…
「うん!平気」
…と、言うだろうなぁ、
真実がどうあれ。
「でも何だろう、疲れたみたい」
「……」
俺は絶句だ。
周りに常に気をつかう睦が…。
いつも本音を隠してムリをするこいつが、
自分から疲れたと言う。
…よっぽどだな。
「ここ出たら帰るか」
「ん…。もったいないなぁ。
もっと天元と遊びたかったな」
残念そうに、でも嬉しそうに言った。
両手で頬杖をつく睦はにこにこ顔。