第17章 愛月撤灯
「またいつでも来られるだろ?」
「うん。……明日?」
「くく、明日ぁ?しょうがねぇな、
睦が行きてぇならいいよ」
「えぇ?本気にしちゃうよ?」
「しろよ」
睦は楽しそうにくすくす笑う。
笑う元気があるならまだ大丈夫か。
冷たい茶を飲みながら
他愛のない会話をする。
「あれ…食わねぇの?」
「うん…食べるつもりだったんだけどね、
目の前にしちゃうと何だか
食欲なくなっちゃって…」
「…お前が?」
「なにそれ!ひどーい」
「だって睦が団子食わねぇとか…」
「私だってそんな時くらいあるよ」
眉を寄せて俺を軽く睨むと
女中に、団子を包んでくれるように頼んでいた。
いや、ねぇよ睦。
今までにそんな時、無かったろ…
どんだけ満腹でも食ってただろ、甘味なら。
俺の視線に気づいた睦は
「朝ごはん食べすぎたのー。見てたでしょ」
…確かにいつもより食ってたよ、
しかも白メシばっかり。
残したらもったいないと言って
全て食い尽くしやがった。
何で炊きすぎたのかなー、
なんて言っていたが、絶対ぇにわざと炊いたんだ。
だって、毎朝のことだ。
分量を間違うなんて事があるだろうか。
まぁ、百歩譲ってあったとしてだ、
昼メシや晩メシに回せばいいわけで…。
ということはだ、
意図的に多めに炊いたという事になる。
自分で食う為に。
別に、
食べたかったの!
と、可愛く言えば済むことなのに。
「妙な所で気ィつかうよな」
「え?そう?…待って、何の話?」
「こっちの話。茶、飲んだか?」
睦はにこりと笑い、
「うん、もう行ける。ごちそうさまでした」
団子の包みを掲げて見せた。
食の好みが変わったかなぁと思う…。
ごはんが美味しくてしかたなくて、
その代わり、お菓子が食べられない。
天元が驚くほどだ。
私自身も驚いている。
でも昔にも、一度そんな事があった。
環境が激変した時だ。
よっぽど疲れてしまっていたのか、
意思とは関係なしに
ごはんがすすんでしかたなかった。
…という事は、今の私は
それだけ疲れているということなのかな。