第1章 嚆矢濫觴
「宇髄さ…」
「黙ってろ」
それを体現するかのように、再び唇が塞がれた。
漠然と不安を感じて、
私は少し体を引く。
頬はつかまれたままで…
宇髄さんの手首に手をかけて力を入れる。
音を立てて離れる唇は、
角度を変えて啄むそれに変わった。
「……んん」
引いた腰を、強い腕に引き戻され、
体を隙間なく埋められた事に、
つい声をもらしてしまう。
心は戸惑っているのに、体は喜んでいるようで、
そのジレンマに涙が流れる。
でも、繰り返される優しい口づけは、
心も体も溶かしていって、
私は、抵抗も恥じらいも忘れて
ただ宇髄さんを受け止めていた。
食むように自分の唇を弄ばれて、
「…んっ……ふ…」
あまりの心地良さに、恐怖すら感じて
彼から逃れようとしてしまう。
合間に、つい顔をそらすと、
熱い目をした宇髄さんは、
私の耳やその裏に口づけをし出して
「い……やぁ……」
感じた事のない、震えるような快感に、
甘い声をもらしてしまう。
顎をつかまれ、荒々しくそちらを向かされると、
さっきよりも、激しく唇を重ねられた。
彼の舌が、私の口内を蹂躙する。
「う…ん……っ」
時間が経つうちに、私はふわふわするのを感じた。
何だか夢の中にいるように。
私の力が抜けたのを
宇髄さんも感じたのか、やっと私を解放してくれる。
黙ったまま、私の目を見つめる。
私が乱れた息を整えていると、
下ろしたままの
私の髪を右肩に纏めて、
宇髄さんはあろう事か
あらわになった首筋に吸いついてくる。
ピリッとした痛みが走り、
舌の腹で舐め上げられてぞくりとする。
「や…」
私が宇髄さんの肩を押すと、
「……嫌、か?」
苦しそうな声で訊かれる。
目を開けて、宇髄さんを見ると、
切羽詰まったような…
ひどく色っぽい顔をしていた。
私の方が、どきりとしてしまう。
そんな顔を見せられたら、
「や、……じゃ、ない…」
私もどこか嬉しくなる。
「…でも」
「お前の嫌がる事はしねぇ」
そう言って、そっと私を横たえる。
触れるだけの口づけを続けながら、
私の襟元を押し開く。
反射的に、身を固くする私を
安心させるように頬を撫でてくれる。