第1章 嚆矢濫觴
私は何とかやめさせようと、
両手で宇髄さんの頬を包んだ。
動きを止められた宇髄さんは
恨めしそうな目で私を見ている。
私が何と言おうか考えあぐねていると、
その間に焦れたのか、
私の手を擦り抜けようとしてくる。
「ま、待って!あの…聞いて下さい」
「…おう。余計な話しは受け付けねぇぜ」
「よ、余計じゃありません。
あの、私…」
意を決してぶつけよう。
「あの、…この間、私が隣町のお店の方と話していた時、宇髄さんがあんなに怒った理由がよくわかりませんでした。
なのに今は、自分がこんなでしょう?
…すごい勢いで変わっていく自分が…
恥ずかしい、です」
出来れば見ないでほしいくらい。
私がちゃんと話すと、宇髄さんはうーんと考えて、
「変わっていくお前が、俺は嬉しい」
そんな事を言う。
「うれしい…」
「あぁ。だってそれは、
俺の事を好きになっていく変化だろ?」
…好き。
宇髄さんの事を。
私が。
ぼけっとしている私を、
驚いたように見る。
「……睦?
俺のこと、好きだろ。気付いてねぇの?」
「え……?」
私、この人を好き?…
「…私、町で…宇髄さんが
きれいな女の人と歩いてるの見て、
すごくショックでした」
俯いて、ぽつりぽつりと話し出すそれを
宇髄さんは黙ってきいていてくれる。
「別に、…宇髄さんは私のものじゃ、ない…のに、
私以外の人と、…一緒にいて欲しくないって、
思って…。でも、そんなの、
宇髄さんに言えないし。
そんなふうに思ったこと、知られたくなかった」
知られたくなかったんだ。
私は涙が出るのを止められない。
…こんなに泣き虫じゃなかった筈なのに。
自分の気持ちをぶつけろと言われても、
そんなの私にはわからないよ。
私は、ポロポロと頬に落ちる涙も構わずに、
「私だけ見てほし……っ」
どうしようもない、この気持ちを
あますことなく伝えようとするのに、
とうとう私の両手を擦り抜けた宇髄さんが、
私の唇を塞いでしまう。
逃がさないとでも言うように、
今度は宇髄さんが、私の頬を包み込む。
ふと唇が離れて、
無意識のうちに閉じていた目を開けると、
怖いくらいに真剣な目にぶつかる。
心臓がドクッと、大きく脈打った。